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維管束系の進化の過程で肥大成長をする植物が登場した。3億8千万年前のデボン紀のことである。肥大成長によって植物の茎に材が形成され、木が誕生した。より強く頑丈な幹の登場で、光を求めての垂直方向の競争は激しくなり、森林という立体空間が地上に出現した。3億7千万年前には高さ20メートルに達する樹幹をもつ植物が出現している。森林の出現で地上の生物量が飛躍的に増大した。植物を食べる昆虫や陸生の軟体動物が上陸し、土壌も発達して土壌動物や分解者である菌類も増加した。脊椎動物が上陸したのはまさに森林が地上に出現したころであった。

3億7千万年前には新しい繁殖法である種子も誕生した。種子はリニアのような軸状の体をもつ種子植物の祖先において、雌の胞子嚢を多数の不稔性の軸が包み込むことで生まれた。卵を手のひらで包むようなものである。体が枝分かれせず、胞子嚢を包みこむ軸がもともと存在しないコケ植物の胞子体では不可能なことである。シダとコケが初期の体制を選んだときに、その後の進化のシナリオはかなり限定されてしまったのである。コケには木も種子もできなかった。

 

陸上生態系の発達

土壌は有機物とミネラルを多く蓄えている。有機物が未分解で蓄積することは、光合成産物がすべて呼吸によって二酸化炭素に戻ることを妨げている点で重要である。すべて二酸化炭素に戻るということは、光合成で作られた酸素がすべて呼吸によって消費され、大気中に蓄積しないことになるからである。現在の大気組成を維持する上で、土壌は重要な役割を果たしている。

土壌に蓄積したミネラルが、海を豊かにしていることも先にふれたとおりである。土壌はまた、水を蓄える。土壌水は地球全体の水の中ではわずか0.002%を占めるにすぎないが、水が同じ状態にとどまる滞留期間は1年未満と短い。このため、土壌に含まれたミネラルは水とともに自然界で短期間に循環できる。滞留期間がさらに短い川の水は、土壌から供給されたミネラルを、短ければ数日のうちに海へ運搬する。

菌類は初期の陸上植物との間ですでに共生関係を作りはじめていたが、森林の登場でさらに関係が密接になった。古生代石炭紀には高温多湿と高い二酸化炭素濃度による温室効果のために光合成が盛んであった。石炭紀までの菌は、木材分解能力が低かったために、湿地には多量の未分解有機物が蓄積し、石炭が形成された。

 

種子植物から被子植物へ

現在の植生を構成する主役は維管束植物のひとつである種子植物である。維管束植物はデボン紀の間に大きく2つの系統に分かれ、そのうち一方から種子植物が生まれた。最初の種子植物は裸子植物である。裸子植物はつづく石炭紀に多様化し、多くの絶滅群が出現して中生代に最も繁栄した。現在はその中から4つの群(イチョウ類、ソテツ類、球果(針葉樹)類、グネツム類)だけが生き残っている。

中生代の多様な裸子植物の中から、白亜紀のはじめまでに現在最も繁栄している種子植物、被子植物(花を咲かせる植物)が誕生した。被子植物が真に植生の主役になるのは新生代で、現在の熱帯雨林のように複雑な森林構造ができあがるのは始新世頃、地球の歴史ではほんの最近である。熱帯雨林は陸地面積の7%を占めるにすぎないが、生産量は陸地全体の三分の一、生物量は現存量で40%を占める複雑な生態系である。

 

 

 

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