すべての陸上植物は配偶体と胞子体という二つの異なる世代を交互に繰り返す。配偶体は卵と精子を作り、受精によって胞子体世代になる。胞子体世代は胞子を形成する。受精には水が不可欠であるが、陸上での繁殖を目的に散布される胞子は乾燥に強いので遠距難を移動できる。飛散した胞子は発芽すると配偶体世代となる。コケ植物は胞子体を小さくし、それぞれの胞子体は光合成をほとんどせずに、配偶体という光合成可能な別の世代に寄生する道を選んだ。陸上で分布を広げるためには胞子の数が多いほどよい。コケ植物の胞子体はまったく分枝しない体で、胞子嚢をひとつしか作れない。しかも、胞子体は配偶体に寄生している。このため、コケ植物は配偶体を量産することで、寄生する胞子体を増やし、胞子の数を増す道を選んだ。
シダ植物の胞子体は配偶体からすぐに独立して自力で光合成し、枝分かれして成長して大型になる。シダ植物は、この大きな体にたくさんの胞子嚢を作ることで胞子の数を増やす道を選んだ。コケ型とシダ型の繁殖戦略の違いは、節分の豆まきを大勢の幼稚園児にやらせるか、ひとりの力士の巨大な手にまかせるかの違いにたとえることができる。この初期戦略の違いがコケ植物とシダ植物の将来を大きく変えることになる。ちょうど多細胞動物にみられる先口動物と後口動物の体制の違いがその後の形態進化の方向を決めてきたことと似ている。
植物が生活するために光は不可欠である。陸上でも光をめぐって競争が生じた。競争相手より先に多くの光を浴びたほうが早く成長し、子孫を多く残すことができる。また、胞子をより広範囲に飛ばして分布を拡大するためには、背が高い方がよい。そのためには、植物は大型化したほうが有利である。大型化するには支えが必要であるとともに、体内での物質輸送を効率よくおこなわねばならない。この目的にかなう組織、通道組織が陸上植物に登場した。なかでも維管束組織は最もすぐれた通道組織である。維管束を発達させた植物を維管束植物といい、初期の陸上植物の中でシダ型の体制をもった植物の中から出現した。
初期の陸上植物には維管束植物、コケ植物、さらにそのどちらでもない仲間が混在していたと考えられる。上陸の実験段階である。シダでもコケでもない仲間は、維管束植物のような通道組織を発達させたが、維管束植物に見られる仮道管という、厚い壁をもった細胞を欠いている。維管束は輸送と同時に、巨大化する体を支える機械組織としての役割も与えられた。コケ植物の小型の胞子体にはこのような通道組織や機械組織が不要であった。胞子体に栄養を供給するコケの配偶体ではときに簡単な通道組織や機械組織が作られるが、維管束植物のように特殊化した複雑な構造は進化しなかった。
発展する維管束植物
大型化への道を選んだ維管束植物では、光を求める競争が厳しくなった。自分より大きいものがいれば、光をとられるからである。このため、さまざまな体制が進化することになった。初期の維管束植物は、デボン紀前期のリニアのような立体二又分枝をくり返す軸状の体からなっており、根も葉もなかった。葉はより効率よく光を受けるための扁平な器官である。葉が出現したことでそれを支える茎も進化した。茎は次第に太くなり、それに応じて維管束も太く複雑になった。リニアの維管束は細く、軸状の体の中央に小さく固まっているだけであるが、現在の維管束植物の茎ではたくさんの維管束が様々な形をとって複雑な維管束系をつくる。