日本財団 図書館


本研究では、陸上の緑の起源となった植物の上陸という地質時代のイべントを、現在の知識に基づいて語り、その自然科学及び社会科学上の意義についてまとめた。それは、植物、海、そして自然が人類にとってなぜ必要であるかを啓蒙するためのひとつの入り口となろう。

 

陸上植物

現在陸には藻類も生活している。なかには、熱帯雨林の植物の葉の上で生育するような藻類もある。しかし、これらは陸上植物と呼ばない。陸上植物とは、コケ植物、シダ植物、種子植物の3群をさす。種子植物には裸子植物と被子植物がある。これらの植物に共通するのは、造卵器という卵を保護する器官をもっていることである。現在の知識では、陸上植物の祖先は、淡水中にいた現生のシャジクモ類に近い緑藻類で、コケ、シダ、種子植物の順に誕生したとされている。しかし、化石記録ではシダ植物の方がコケ植物より古い。これは、コケの方が化石化しにくいためであると考えられている。陸上植物の中には、生育環境を水に戻したものがあるが、もちろんこれらも陸上植物である。

 

植物の上陸戦略

私たちの属する脊椎動物が上陸したのは今から3億7千万年以上前の古生代デボン紀後期のことである。そのころ陸上植物界ではすでに立派な森林ができあがっていた。それに先立つこと5千万年、古生代のシルル紀という時代までに陸上は少しずつ緑になりはじめたようである。姿かたちのわかる最初の陸上植物の化石は4億2千万年前のシルル紀のものであるが、それより少し前のオルドビス紀からすでに陸に上がったと考えられる植物の証拠が破片としてみつかっている。

動物が上陸するときには何が問題になっただろうか。私たちの祖先である魚が陸に上がるとして、何を変えればよいのだろう。たとえば、どうやって酸素を体に取り入れるかという呼吸の問題、体からの水分の蒸発や外気の強い紫外線から身を守る皮膚の改善、老廃物の捨て場というゴミ問題、浮力のない地上でどう体を支えるか、そして、卵をどこに生むかという繁殖方法の改善などがあげられよう。

植物も同じような問題を抱えている。まず陸上の厳しい環境に対応した組織を作る必要があった。外界との接触には丈夫な表皮組織が、水の保持には柔組織が、重力に対しては機械組織が分化した。空気中での繁殖には胞子という遺伝子の空飛ぶカプセルを作った。表皮の表面にはクチクラという空気や水を通さない層を作った。一方で、クチクラ層があるために、植物の生活手段である光合成や呼吸に必要な二酸化炭素と酸素の出し入れが不可能になった。この点は気孔という換気口を表皮に作ることで解決した。オルドビス紀の植物破片化石はこのような上陸に際して準備された構造や組織、たとえば表皮の一部や胞子などである。

 

コケ型とシダ型の繁殖戦略

現在の陸上植物にはコケ植物、シダ植物、種子植物がある。コケ植物とシダ植物は胞子繁殖をし、種子植物は、種子で繁殖する。総合的にみると種子は胞子よりすすんだ繁殖方法であるため、コケ植物やシダ植物は種子植物より低い進化段階にあると考えられる。事実、化石記録も最初の陸上植物はすべて胞子繁殖であったことを示している。初期の陸上植物は、まだコケともシダともつかないものであるが、それぞれの方向への分化がすでにみられる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION