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原始スープ中にモノヌクレオチドが存在したという前提条件のもとで、RNA合成を行なう場合、水溶液中でいかに効率よく脱水反応をおこさせ、3'-5'のリン酸ジエステル結合をつくらせるかという問題に直面する。この脱水反応は自発的に進行しないため、加熱や縮合剤によって脱水しなければならない。原始地球上ではシアン化水素やそれから誘導されるシアナミド、ジシアンアミド、ジアミノマレオニトリル、ジイミノスクシノニトリル、シアノイミダゾール、イミノジイミダゾールや、無機のポリリン酸などの反応活性な化合物が豊富に存在しており、それらが脱水反応の縮合剤として作用したものと考えられる。

エネルギーに加え、分子の集合、配列状態も反応の高効率化、高選択性化に寄与したと考えられ、粘土表面へのモノヌクレオチドの吸着による濃縮や、ポリヌクレオチドを鋳型に用いて、モノマー分子を規則的に集合配列させる試みがなされ成果を上げている。

これまで報告されている効率のよいRNAの無生物的合成は、モノヌクレオチドのリン酸部が活性化された化合物(例えば、イミダゾールで活性化されたイミダゾリドなど)や鋳型として長鎖のポリヌクレオチドを必要とする。例えば、鋳型存在下で最高50量体以上の重合体が得られている。しかし、この場合活性体は有機溶媒中で合成されたものが用いられており、反応効率が悪いと考えられる原始の海の環境下では100%の活性化は難しい。活性化が不十分のヌクレオチドを鋳型上に配列させ重合を試みると、リン酸ジエステル結合よりも二つのリン酸基同士が縮合したピロリン酸結合の形成が優先し、長鎖の重合体を得ることは難しい。また、鋳型となる長鎖のポリヌクレオチドが最初どのようにして生成したかなど、原始地球上での可能な合成過程としては問題点が多い。

 

分子集合場を利用したRNA合成

私たちは化学進化の過程において、低分子から高分子が合成されて行く仕組みに「自己組織化」という指導原理が作用しているのではないかと考え、自己集合場を利用したRNAの合成モデルを検討した。自己組織化とは、システムの活動それ自身によってシステムの構造が次第に変化し、組織化されていくことをいう。結晶化や相分離に見られるように、自己集合は基本的な物理化学的プロセスである。現在生体で使われている物質の分子化学特性に、その進化の論理性を求めようとする試みは、生命の起源の研究に新しい視点を提供してくれるものと思われる。具体的方法として、ヌクレオチド自身で自己集合する系として、ゲル形成能をもつジグアノシンピロホスフェート(GppG)を、また自己集合能をもつ他の分子の力を借りてモノマー分子を集合させる系として、核酸と脂質を連結させた5'-ホスファチジルヌクレオシドを用い、自己集合や重合反応を検討した。

最近、私たちはGppGが室温、中性条件下で強いゲルを形成することを見出した。ゲルを電子顕微鏡で観察すると、長いひも状の構造体が多く見受けられ、画像解析の結果、ひも状構造体はらせん構造をもっていることがわかった。形成されたGppGのゲルは塩基のグアニン部分が4個互いに水素結合して平面層を作り、これらが回転して積み重なった線状高分子様の自己集合体の生成によるものと推測される。

ピロリン酸結合はリン酸基が活性化された状態と考えることができる。現存する生物のRNA連結酵素よるRNAの合成反応はピロリン酸結合を形成して進行している。それゆえ、GppGからグアニル酸の重合体への変換が期待される。

 

 

 

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