実際、GppGを出発原料としてグアニル酸の重合体を合成することを検討した。水溶性の縮合剤を用い、GppGとイミダゾールを含む水溶液を室温で反応させたところ、原料のGppGはほぼ消失し、代わりに5つの主生成物が存在することが分析により明らかになった。生成物は質量分析法、酵素消化法などから分子内にピロリン酸結合とリン酸ジエステル結合をもつグアノシンヌクレオチドの重合体の混合物(2〜6量体)と同定された。また、反応がゲルを伴う自己集合体形成に強く影響されることがわかった
新しいらせん構造の形成
モノヌクレオチドを水に溶けない疎水性の物質に連結させたものは、水溶液中で自己集合し、RNAやDNAに似た高次構造体を形成することが期待される。私たちは疎水性のリン脂質とヌクレオシドを連結させた複合体、5'-ホスファチジルヌクレオシドを合成し、その水溶液中での自己集合を調べたところ、DNAやRNAに類似した直線状や環状のらせん構造体を形成することを見出した。例えば、5'-ホスファチジルシチジンは0.05モル塩化カリウム存在下では直線状のらせん構造体を形成する。また、より高濃度(0.1-0.2モル)条件下では環状のらせん構造体を形成する。直線状のらせん構造体を画像解析して更に詳細に調べてみると、100Åの径と240Åの長さのピッチをもっていることがわかる。ヘリックスは右巻きで、二重らせん構造である。また、5'-ホスファチジルデオキシシチジンは二本鎖あるいは二重の二本鎖の超らせん構造を形成する。シチジン以外のヌクレオシドの複合体でも同様ならせん構造体が形成される。長いアルキル鎖の部分が水に溶けない疎水基で、リン酸の部分が親水基である。らせん構造体の形成には疎水基同士の集合や核酸塩基間の水素結合と積み重なりが必要である。これらの結果は、低分子のヌクレオチド中に分子固有の特性としてらせん性が存在していることを示し、核酸の進化を考える上で興味深い。5'-ホスファチジルヌクレオシドから形成されたひも上構造体のような、非共有結合で配列したモノヌクレオチド誘導体が原始RNAとして作用できたかどうか不明だが、形成されるらせん構造体が鋳型として作用し、RNAの爆発的な増殖モデルをつくることができれば大変興味深い。また、このように自己集合により形成された場は、新しい機能を獲得しつつ高次組織体へ向けて進化できた可能性がある。
リボザイムは重合能力をもっている
真核生物の遺伝子では、タンパク質をコードするDNAのヌクレオチド配列(エクソン)は、タンパク質をコードしないヌクレオチド配列(イントロン)で分断されている。イントロンの部分はDNAからRNAに転写された後切り落とされ、エクソン部分同士が継ぎ合わされる。この切断、連結過程を「スプライシング」という。
1981年、コロラド大学のチェックらは繊毛をもつ原生動物の一種であるテトラヒメナのリボソームRNA遺伝子の研究過程で、グアノシンやマグネシウムイオンを含んだ溶液中では、前駆体リボソームRNA中のイントロンが、タンパク質の存在なしに切り出され、残りのエクソンの両端が結合(スプライス)されることを発見した。これらの一連の反応は、リン酸ジエステル結合の数に変化を起こさせないリン酸ジエステル結合の交換反応により起こっている。チェックは自分自身に作用するRNA触媒を「リボザイム」と命名した。