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隕石中の核酸塩基は、その抽出法、分離法、同定法などの確立が、アミノ酸の場合と比べて遅れたため、その存在についてはなかなか決着がつかなかった。しかし最近になって、質量分析法や核酸の分離に適した高速液体クロマトグラフィー法が開発され、これらを用いて新たにマーチソン隕石が分析された。その結果、アデニン、グアニン、シトシン、ウラシル、チミンの五種類の核酸塩基のすべてが隕石に含まれていることが明らかになった。

 

リボースはどのようにしてできたか

RNAのもう一つの構成成分であるリボースは、どのようにしてできたのであろうか。リボースなどの糖の始原物質は、ホルムアルデヒドであったと考えられている。ホルムアルデヒドは原始地球を模した化学進化実験で、容易に生成することが知られている。たとえば、メタン/水系、一酸化炭素/水系、二酸化炭素/水系の紫外線照射や、メタン/水系、一酸化炭素/水/窒素系に放電することによって、ホルムアルデヒドがつくられる。また、星間分子の中にも存在することが、電波望遠鏡の観測により明らかになっている。

ホルムアルデヒドの元素組成(CH2O)は、糖、たとえば、グルコースの元素組成(CH2O)6と同じであるから、ホルムアルデヒドから原理的には直接、糖の合成が可能であると考えられる。実際、濃いホルムアルデヒドのアルカリ水溶液を加熱することにより、糖が得られることは古くから知られ、ホルモース反応と呼ばれている。ホルモース反応には触媒として、アルカリ土類金属の水酸化物や酸化物が用いられてきた。一般に、塩基性条件下で、二価金属イオン、アルミナ、粘土を存在させると、ホルムアルデヒドは容易に重合して種々の炭素数の糖を形成する。たとえば、ホルムアルデヒドが2個つながったグリコールアルデヒドなどの二炭糖、3個つながったグリセロアルデヒドなどの三炭糖や4個から7個つながったものなどである。このように、ホルモース反応ではたくさんの糖の混合物が一度に生成してしまう。その混合物の中に含まれるリボースは、ごくわずかである。したがって、もしリボースがヌクレオシドを構成する唯一の糖であった場合、なんらかの選択的な反応が必要となる。

最近、スイス連邦工科大学のエッシェンモーザーは、前生物的な条件下で特定の糖を選択的につくる方法を見出した。たとえば、グリコールアルデヒドリン酸をアルカリ溶液中、室温で1週間反応させると、四炭糖と六炭糖が80%以上の収率で得られた。このうちの半分はアロース-2、4、6-三リン酸であった。また、この反応をホルムアルデヒド存在下で行なうと、五炭糖のリボース-2、4-二リン酸が選択的に合成された。核酸を構成するリボースの選択的合成法が見つかったのである。

 

ヌクレオシドとヌクレオチドの合成

リボースと核酸塩基が結合すると、ヌクレオシドが、ヌクレオシドとリン酸が結合すると、ヌクレオチドが生成する。天然のヌクレオシドは、リボースの1位の炭素原子と、プリン塩基の9位の窒素原子の間、または同じくピリミジン塩基の1位の窒素原子との間に生じる、β-N-グリコシル結合をもっている。無生物的なヌクレオシドとヌクレオチドの合成経路は、どのようなものであったのだろうか。

核酸塩基の反応性は比較的低いことが知られており、リボースと核酸塩基を直接加熱しても、ヌクレオシドは得られない。しかし、ある種の無機塩類を存在させて、プリン塩基とリボースの反応を行なわせると収率よくヌクレオシドが得られる。

 

 

 

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