とくに最近は、シアノトリアセチレン(HC7N)、シアノテトラアセチレン(HC9N)、シアノペンタアセチレン(HC11N)などの巨大なポリアセチレン化合物も見出されている。このように宇宙空間にはたくさんの有機分子が存在しており、なかには地球上には存在していないような有機分子も存在している。そしてある銀河系には、質量にして地球の何百個分もの莫大な量の星間分子が存在していることが知られている。
彗星は46億年前、原始太陽系星雲から太陽や惑星が形成される時、惑星を形成せずとり残されたガスやチリの集まりである。このガスやチリが凍り固まって雪だるま状になり、互いにくっつき合って直径1〜10キロメートルほどの氷塊となり、太陽系の遠い端に漂っている。彗星の大部分は冥王星の軌道よりも内側にはけっして入ってこないが、ときとして近くを通る恒星の引力により運動が乱され、一群の彗星が細長い長楕円軌道に乗って太陽に向かって進んでくる。その軌道は木星や土星のような質量の大きい星の引力で変えられ、太陽系の内側に入ってくる。彗星は木星と火星の軌道の間ぐらいまで来ると太陽光や陽子線によって熱せられ、蒸発し始める。
彗星に含まれている分子は大部分水であるが、一酸化炭素、二酸化炭素、シアン化水素、ホルムアルデヒド、アセチレン、メチルアセチレン、アンモニア、アセトニトリルなどの分子も含まれている。核の中に存在する有機分子は暖められ、昇華し、チリと共に核から脱離し、飛び出して行く。これらの分子は紫外線によってさらににバラバラにされて行く。
彗星が地球のそばを通過するとき、大量の隕石を降らせることから、原始地球に有機物を運んできた可能性が考えられる。1986年のハレー彗星接近の折、探査衛星「ヴェガ1号」には質量分析計が搭載され、そのチリの中の有機物の分析が行なわれた。データの解析の結果、彗星のチリ中に、種々の有機物に混じって核酸塩基のプリン類、ピリミジン類などが存在していることがわかった。彗星も地球上での化学進化の担い手として、重要な役割を果たしたにちがいない。
地球に落ちてくる隕石の大部分は、火星と木星の軌道の間に存在する小惑星由来と考えられている。小惑星は小さな地球型の惑星で、大きいものは直径1000キロメートルもある。小惑星の多くは細長く、回転しながら太陽の周りを飛んでいる。お互いの軌道が近づいた場合、衝突し、その壊れたかけらが地球に近づいた時、引力に引っ張られ落ちてくる。このような小惑星は太陽系の惑星ができる時、近くにある木星の巨大な引力による潮汐現象のため惑星になることができなかった岩石の塊の群れである。
隕石には主に石からできている石質隕石、鉄からできている隕鉄、石と鉄の両者からできている石鉄隕石の三種類ある。石質隕石は、直径数ミリ以下の「コンドルール」と呼ばれる丸いガラス質の玉を含むコンドライトと、含まないエイコンドライトに分けられる。コンドライトのうち炭素を含むものは炭素質ゴンドライトと呼ばれる。
隕石中の炭素質の中に、生物と関係するアミノ酸や核酸などの分子が、存在するのではないかとの期待から、早くから炭素質コンドライトの分析が行なわれてきた。しかし、落下後の地球上での生物による汚染の問題があった。そのため、隕石固有の有機物の分析には、新しい、または汚染の可能性が低いと考えられる隕石の入手を必要とした。1969年、オーストラリアのマーチソンに落ちた隕石は、落下直後採取され、直ちに有機分析が行なわれた。その結果、隕石中からグリシンをはじめ、アラニン、バリン、グルタミン酸など合計20種ほどのアミノ酸が検出された。生体のタンパク質を構成していないアミノ酸が存在することや種々の物理化学的性質から、得られたアミノ酸が地球上で混入したものでないことが証明された。