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最近、海底の高温の熱水環境下で生命は誕生したのではないかという可能性が注目されるようになってきた。ガラパゴス諸島付近、東太平洋海膨、ファン・デ・フカ、カリフォルニア湾内のワイマスベーズン、マリアナ、沖縄などの海底の地殻の裂け目から高温の熱水が噴き出していることが見出されている。なかでも、北緯21°の東太平洋海膨の水深2600メートルのところにあるブラックスモーカーと呼ばれる噴出孔は、350℃の超高温の熱水を噴き出している。海底熱水噴出孔は、メタン、硫化水素、水素、アンモニアなどの濃度がまわりの海水に比べて異常に高く、いわゆる還元的な環境である。

地球がドロドロにとけていた状態から固まって地殻ができ、海ができつつある先カンブリア時代には、地殻が柔らかく全地球規模で熱水が噴き出していたと想像できる。このような高温の海底熱水噴出孔環境下で有機物が無生物的に本当に合成されるであろうか。海底熱水噴出孔環境下での有機物の合成はこれまでしらべられていなかった。私たちは海底熱水噴出孔海水と同じ組成の模擬熱水噴出孔海水をつくり、その中でメタンを加圧、加熱し、アミノ酸など生体構成分子が生成するかどうかしらべてみた。模擬熱水噴出孔海水をガラス管に入れ、これを加圧釜に入れて設置した後、メタンを40気圧、窒素を40気圧張り込み、325℃で6時間加熱した。圧力は最終的には200気圧に達する。その結果、グリシンやアラニンなどのタンパク質アミノ酸や、βーアラニンやγーアミノ酪酸などの生体のタンパク質を構成していないアミノ酸も生成することがわかった。

宇宙線も有機物の無生物的合成に有効なエネルギー源と考えられる。宇宙線の主成分は陽子で。その他アルファ粒子(ヘリウムの原子核)やリチウム、ベリリウム、ホウ素、鉄などの原子核からなる。宇宙線粒子の平均エネルギーは10億電子ボルトで、その発生源は超新星爆発と考えられているが、まだはっきりわかっていない。太陽からも100万電子ボルトの高エネルギー粒子が発生している。これは太陽フレア粒子と呼ばれ、太陽の爆発時に出される粒子である。その衝撃波は太陽コロナを通り抜け惑星空間に伝播し、時として地球周辺にも到達し、磁気嵐を引き起こす。

最近、横浜国立大学の小林憲正と東京工業大学の大島泰郎と私たちはヴァン・デ・グラーフ加速器を用いて、一酸化炭素/二酸化炭素/窒素/水の酸化型大気に陽子線照射を行ない、グリシン、アラニン、セリンなどのタンパク質アミノ酸やβーアラニンなどのタンパク質を構成していないアミノ酸が効率よく合成されることを見出した。アミノ酸のエネルギーあたりの収量では陽子線照射は火花放電の10倍以上効率がよかった。火花放電の場合、炭素源として酸化炭素を用いると、多量の水素を加えないとアミノ酸の収量が大幅に低下する。陽子線の場合は、炭素源として一酸化炭素を用いてもその収量はメタンのそれと同じであった。また、一酸化炭素に二酸化炭素をまぜてもアミノ酸の収量は変化しない。このことは原始大気中の炭素源の主成分が一酸化炭素と二酸化炭素の混合物であったとしても、一酸化炭素からはアミノ酸の合成が可能であることを示唆している。また、反応生成物をさらに分析した結果、核酸塩基のウラシルや塩基のイミダゾールも生成していることが明らかになった。

 

生命の素材は地球外から持ち込まれた?

宇宙は有機物の宝庫である。だから地球上の生命の起源を考える場合、宇宙空間にも目を向ける必要がある。

電波望遠鏡を用いたセンチ波やミリ波の観測によって、一酸化炭素、シアン化水素、シアノアセチレン、メチルアルコール、エチルアルコール、アセトアルデヒド、シアナミドなどの分子の存在が確認され、これまでに70種以上のいろいろな星間分子が発見されている。

 

 

 

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