5. RNAと生命の起源
RNAは生命のはじまりを解く鍵をにぎっている
これまで生命のはじまりを考えるとき、人はニワトリとタマゴの関係のパラドックスに悩まされてきた。パラドックスとは、一般に認められている結論とは反対の、あるいは自己矛盾する結論にいたる説のことをいい、逆説ともいう。生命のはじまりのパラドックスは、情報(タマゴ)が先か、機能(ニワトリ)が先か、という問題である。現在の生物では遺伝情報の流れは、DNA(デオキシリボ核酸)→RNA(リボ核酸)→タンパク質である。これはセントラルドグマ(中心教義)と呼ばれる。そして、遺伝情報を核酸が、代謝機能をタンパク質が受けもっている。核酸はタンパク質の触媒反応によってつくられ、そのタンパク質は情報の核酸に基づいてつくられる。始まりがなければならない。この地球上に核酸とタンパク質のどちらが先に出現したのであろうか。
このパラドックスの問題は、核酸の一種であるRNAがタンパク質の助けをかりずに、自分で触媒反応を行なうということの発見によって新たな局面を迎えた。RNAの中に、自分自身や他のRNAを切ったりつないだりする機能をもつものが見つかったのである。これまで遺伝情報坦体であると考えられていた核酸が、タンパク質と同じ触媒機能をもつという事実は、最初の生命は核酸から始まった可能性を強く示唆している。
RNAは自分自身を複製するのに都合のよい性質をもっている。4種の塩基間で対をつくり、相補的な鎖を形成できる。すなわち、一つの鎖を鋳型にしてもう一つの鎖をつくることができる。これによってRNAは自分自身を複製し、増やすことができる。もし、原始RNAがRNAの複製反応を触媒できたならば、この仮想分子は遺伝情報と触媒機能の一人二役の働きをすることができ、原始生命と呼ばれる資格をもっている。
最近の分子生物学の進展により、RNAは非常に多彩な機能をもっていることがわかってきた。RNAは地球上の生物の生活に密接にかかわっている。また、生命の一番はじまりの物質として、生命誕生の鍵をにぎっていたと考えられる。最初のRNAは原始地球上でどのようにして創られたのだろうか。
RNAとは何だろう
DNAとRNAは兄弟分子である。DNAは分子量が数百万以上の巨大分子である。DNAにはアデニン(A)とチミン(T)、グアニン(G)とシトシン(C)が常に等量含まれている。これはAはTと、GはCと水素結合をつくって相補的に連結し、二重らせん構造を形成しているからである。これに対して、RNAを構成しているヌクレオチドは相補的な比をとっていない。すなわち、Aとウラシル(U)、GとCの量は等しくない。これはRNAがDNAのような二重らせんばかりでなく、ループと呼ばれる不規則な一本鎖の構造をとっていることによる。たとえば、ヘアピンループ、内部ループ、バルジループ、仮結び(プソイドノット)などの構造である。
RNAはタンパク質に比べて融通性があり、分子内の他の相補配列の箇所と塩基対をつくって構造を変化させることが可能である。RNAの濃度が高いと、二重らせんばかりでなく、多重鎖のらせんがつくられることもある。