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最古の石灰岩は南アフリカで発見されており、31億年前のもので、これも生物によってつくられたものである。このように海の生物は膨大な量の二酸化炭素を石灰岩に変えてきた。

このように、大気中の二酸化炭素は生物に取り込まれ、石灰質の殻になったり、光合成によって有機物に変わったりして、さらにその遺骸が堆積したり、微生物によって分解されたりして、二酸化炭素として大気中に再び戻っていく。これは生物学的な炭素循環を呼ばれる。この循環は数万年というタイムスケールでおこっている。しかし、このような生物学的な炭素循環は、もっと大きな地球化学的な炭素循環の一部にすぎない。地球化学的な炭素循環は地球規模でおこっている。すなわち、地表近くの堆積岩、大気、海洋め間、生物圏の炭素循環を支配している。この地球化学的な炭素循環は数百万年という長いタイムスケールでおこっている。

炭素はおもに炭酸塩や、ケロジェンと呼ばれる有機物として堆積岩中に存在している。石油や石炭などの化石燃料中の炭素はごくわずかなものであり、石灰岩のなかの炭酸塩はサンゴなどの石灰質の殻をもった海洋生物の硬組織の遺骸である。ケロジェンは太古の動植物の柔組織の部分に由来している。石灰岩は地下水に含まれている炭酸によってとかし出され、重炭酸イオンやマグネシウムイオンやカルシウムイオンになる。炭酸による風化作用である。炭酸は空気中の二酸化炭素が地下水にとけてできたものである。風化作用で地下水にとかし出された重炭酸イオンとカルシウムイオンは、河川を経て、海に運ばれる。重炭酸イオンは海洋生物によって取り込まれ、カルシウムと結合して炭酸カルシウムとなり、骨や殻を形成する。このような海洋生物の死骸が炭酸カルシウムとして海洋底に堆積する。生物に取り込まれた重炭酸イオンのうち、半分は炭酸カルシウムとして海洋底に堆積するが、残りの半分は光合成や呼吸作用により二酸化炭素に変換され、大気中に放出される。このような炭酸カルシウム由来の炭素は海洋底の全炭素の80%を占める。一方、ケロジェンは頁岩に含まれ、酸素と反応して二酸化炭素になり、大気中に放出される。

また、重炭酸イオンは花崗岩や玄武岩に存在するケイ酸塩鉱物からも炭酸の風化作用でつくられる。ケイ酸塩岩石(ケイ酸カルシウム)が炭酸と反応すると、カルシウムイオンと重炭酸イオンとケイ酸ができる。海洋に運ばれたカルシウムィオンと重炭酸イオンは海洋生物によって炭酸カルシウムとして固定される。この反応では二酸化炭素の半分しか大気にもどっていない。だから大気中の二酸化炭素はどんどん減少してしまう。しかし、そのバランスは火山からの噴火などによって補償され、保たれている。

海洋底に堆積したカルシウムとマグネシウムの炭酸塩が移動し、地下数kmの深さまで埋没すると、その高温環境下でまわりのケイ酸塩と反応する。その結果、ケイ酸カルシウムやケイ酸マグネシウムや二酸化炭素ができる。生成した二酸化炭素は火山から噴出したり、地殻の大きなプレートが衝突する沈み込み帯などから脱ガスして大気中に放出される。このような地球化学的な炭素循環により、大気中の二酸化炭素量は一定に保たれているのである。

現在、石油や石炭などの化石燃料を大量に燃やしているため、大気中の二酸化炭素量が増加しており、その温室効果による地球の温暖化が問題になっている。しかし、数億年前の地質時代には大気中の二酸化炭素濃度が高まり、温室効果によって現在の気温よりも高かった可能性があることが指摘されている。

大陸ができはじめた30億年前から、地球化学的な炭素循環が働きはじめた。地球環境がその後現在の地球環境とかわらず安定であり続けるのは、大陸を含めた地表付近の二酸化炭素の地球化学的な循環があるからである。このように、地球環境の進化は、生物圏との関係によらず、地球表層および内部を含めた堆積岩、大気、海洋の間の物質循環によって支配されてきたといえる。

 

 

 

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