RNAは、金属イオンと結合できる4つの部位、すなわち負に帯電したリン酸の酸素原子、リボースの水酸基、核酸塩基の環の窒素原子や環外のケト基をもっている。たとえば、マグネシウムイオンは正の電荷をもっているため、負の電荷をもっているリン酸基と結合しリン酸基同士を結びつける役目をする。だから、金属イオンはRNAの高次構造の安定化に非常に重要である。
RNAはDNAよりも先に出現した
地球型の生命では、遺伝情報の流れはDNA→RNA→タンパク質である。地球型の生命とことわった理由は、地球型の生命の特徴である細胞構造をもつこと、核酸が遺伝情報をつかさどること、タンパク質が代謝をつかさどること、進化することなど、他の星に生命が存在した場合、それに必ずしも当てはまるとは限らないからである。つまり、生物学は物理学や化学のように宇宙のどこでも成り立つ普遍的な科学ではないのである。幸か不幸か、我々はまだ地球型の生命しかその存在を知らない。地球生物学が宇宙生物学に拡大、発展していってはじめて普遍的な科学となり得る。
最初の生命が誕生したころは、DNAでなくてRNAが遺伝情報坦体として使われていたと考えられている。その根拠として、いろいろな理由が考えられる。その一つとして、RNAの構成成分であるリボースの無生物的合成がある。リボースのような糖類は、水溶液中でホルムアルデヒドから無生物的に合成される。しかし、DNAの構成成分のデオキシリボースは、ホルムアルデヒドから無生物的に合成されない。現在の生物では、デオキシリボヌクレオチドはリボヌクレオチド二リン酸のリボヌクレオチド二リン酸レダクターゼによる酵素的還元でつくられている。また、水溶液中で無生物的にヌクレオチド単位を1個ずつつなげてオリゴヌクレオチドをつくる際にも、RNAの方がDNAよりもはるかにつくり易い。これはヌクレオチドのリボースの2'位に水酸基が存在することによって、3'位の水酸基が活性化されることによる。デオキシリボースには2'位に水酸基が存在しないので、3'位の水酸基が活性化されない。生体内のタンパク質合成にはいろいろなRNAが関与しているが、DNAは直接的には関与していない。すなわち、メッセンジャーRNA(mRNA)は鋳型として、リボソームRNA(rRNA)はタンパク質の合成工場として、転移RNA(tRNA)はアミノ酸の運び屋としてそれぞれタンパク質の生合成に関係している。DNAの生合成の開始には、プライマーと呼ばれる短鎖のRNAを必要とする。しかし、RNAの生合成の開始にはプライマーを必要としない。また、RNAウイルスの中のレトロウイルスと呼ばれるウイルスは、RNAからDNAをつくる逆転写酵素をもっている。これらの仕組みは、RNAからDNAへの移行期の面影を残している分子化石かもしれない。NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)、FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)、補酵素Aなどは補酵素と呼ばれ、酵素に弱く結合して酵素の触媒作用を助ける重要な役目をしている。これらの化合物はニコチンアミド部やフラビン部にアデニル酸がピロリン酸結合(二分子のリン酸基同士の結合)を介してつながっている。すなわち、これらの補酵素はRNAの関連化合物とみなすことができる。近年、RNAにもリン酸ジエステル結合を切断したり、連結したすることができる触媒作用をもっているものが知られてきた。このように、RNAはDNAに比べ多様な機能をもっていることがわかる。そのような理由から、機能をもつRNAがDNAより先に出現したと考えられている。