この酸素は地球上に生命が誕生した後、光合成生物によってもたらされたのである。原始の海の誕生のところで述べたように、原始の雨は酸性であったため岩石中の鉄をとかし、鉄イオンとして大量に原始の海に蓄積させた。やがて原始の海に酸素を必要としない嫌気性の原始生命が誕生し、それからラン藻のような新しいタイプの生物が発生し、繁殖するようになると、酸素が大量に放出されるようになり、この酸素が海のなかの鉄イオンと反応し、酸化鉄を形成することになった。
光合成によって酸素を放出するラン藻は35億年前に発生し、それから徐々に増え始め20億年前には大繁殖した。これは化石からの証拠から支持されている。鉄の堆積もラン藻の繁殖につれて始まり、26〜18億年前に盛んに堆積した。ラン藻が繁殖する以前に鉄が大量に堆積した例は見あたらない。その後もラン藻などの光合成生物の繁殖は続き、どんどん酸素を放出したが、その酸素は鉄の酸化につかわれなくなったので、大気中に徐々にたまり始め、7〜8億年前から急激に増え、陸上生物が現れた4億年前には現在の酸素量とほぼ同じレベルに達していた。このように、大気中の酸素は光合成生物の繁殖とともに増えていったことがわかる。
酸素が存在しない時代にあらわれた生物は嫌気性生物である。嫌気性生物は発酵によりエネルギーを獲得する。つまり、有機物を分解してエネルギーを得るのである。アルコール発酵する酵母や乳酸発酵する細菌などはよく知られている。アルコール発酵とは炭水化物をアルコールにまで分解してエネルギーを獲得する様式であり、乳酸発酵とは炭水化物を乳酸にまで分解してエネルギーを獲得する様式である。しかし、発酵のエネルギー生産性は低い。
一方、好気性生物は、酸素呼吸により有機物を分解し、エネルギーを得ている。炭水化物が好気的に分解されると、最終的には炭酸ガスと水になる。呼吸によるエネルギー生産性は発酵にくらべて20倍も高いのである。
大気中の酸素が増加し、酸素を積極的に利用する好気性生物があらわれ、進化するにつれて、嫌気性の生物は酸素のあまり存在しない環境、たとえば土壌中などに追いやられてしまった。好気性生物は、バクテリアのような簡単なものから、核をもつ真核生物、さらに多細胞生物へと進化していった。地球上に酸素がじゅうぶん蓄積されると、上空では太陽からの紫外線の作用によりオゾン層が形成された。オゾン層は生物にとって有害な紫外線を遮蔽するため、陸上でも生物が生活できるようになる。オゾン層のバリアーができて、生物は海からようやく陸に上がることができるようになった。4億2000万年前のことである。このように、オゾン層と陸上生物の生活とのかかわり合いは、4億2000万年前からはじまり、今日までずっと続いてきている。だから、現在のオゾン層の破壊が大きな地球環境問題になっているのである。
現在の地球の大気に含まれている二酸化炭素は0.03%、気圧にして0.0003気圧である。最初原始大気にたくさん存在した二酸化炭素はどのようにして減少していったのであろうか。前に述べたように、原始大気中の二酸化炭素は海にとけ、無機的な反応や生物の作用によってカルシウムイオンと結びつき炭酸カルシウム、すなわち石灰岩となって沈澱していった。このようにして原始大気中の二酸化炭素は比較的速やかに取り除かれ、海底に固定されていった。
現在地球上には膨大な量の石灰岩が存在している。なかでも中国には広範囲にわたって分布しており、およそ4億年前のデボン紀に繁殖したサンゴや層孔虫などの石灰質の殻をもつ生物の遺骸が堆積したものである。また、ラン藻も浮遊する炭酸カルシウムの粒子を吸着し、石灰岩のマウンドをつくる力をもっている。