これは原始の海が非常に熱かったころ、最初の原始生命体が誕生したことを示唆しているのかもしれない。
やがて、原真核生物に好気性の細菌が侵入して、ミトコンドリアとなって共生し、動物細胞や菌類の細胞の原型となった。さらに、光合成を行うシアノバクテリアが入り込んで葉緑体となり、植物細胞の原型がつくられた。およそ13億年前に、このような細胞内小器官をもつ真核生物が誕生し、次いで多細胞生物が6億年前に誕生して、海の中で爆発的に増え始めた。バージェス頁岩で見つかった奇妙な形をした多細胞生物のアノマロカリスなどが繁栄したのはこのころである。やがて、4億年前になると、魚類から進化した両生類が陸に現れ、爬虫類、鳥類、哺乳類や昆虫類、陸上植物など非常に多様な生物種へとDNAワールドは進化して行った。
4. 光合成の始まりと地球環境の変化
非常に古い生命の存在は、微化石、ストロマトライト、有機物の同位体の化学的特徴などの証拠から判断される。微化石の研究は1960年代以後活発に行なわれるようになった。たとえば、南アフリカのオンバーワクト層の35億年前の堆積岩には微化石が見つかっている。また、オーストラリア西部のノース・ポールやマーブル・バーの35億年前の堆積岩のなかにも微化石が含まれている。とくに注目すべきことは、西オーストラリアの堆積岩のなかにラン藻の微化石が見られることである。この堆積岩にはフィラメント状バクテリアに似た微小物体が確認されており、これが現在のシアノバクテリアの形状や分裂の様子に非常に似ていることから、先カンブリア時代のバクテリアであると、考えられている。
さらに古く、グリーンランドのイスアというところから38億年前の最古の堆積岩が見つかっている。しかし、この堆積岩は激しい地殻変動を受け、高温、高圧の条件にさらされたと言われている。したがって、生物のような有機物は分解されてしまった可能性が高い。これまで酵母のような形をした微化石がみつかっているが、数が非常に少なく説得力がない。西オーストラリアの場合は高温、高圧によって変成を受けてなく、同時にストロマトライトが見つかる点で非常に説得力がある。
ラン藻は細菌とおなじ原核生物に属するが、植物とおなじように光合成する能力をもっている。光合成は二酸化炭素と水から太陽光のエネルギーによって炭水化物をつくり、酸素を放出する反応で、ラン藻の場合、細胞膜から伸びたひだのなかの光合成装置で行なわれている。このような複雑な仕組みの光合成装置をもったラン藻は原核生物のなかでも高等で、もっと下等な酸素を必要としない嫌気性細菌のような生物から進化してきたと考えられている。原始地球には最初酸素はほとんど存在しなかった。だから生命が誕生した当時は嫌気性の生物が大繁栄していた。その後ラン藻が出現し、酸素を放出し、蓄積し始めると、嫌気性生物にとって酸素は有毒であるので、しだいに死滅するか、酸素のない環境に追いやられてしまった。その結果、次の時代には酸素を必要とする好気性生物が大繁栄した。ラン藻が35億年前にすでに存在していたとすると、さらに下等な原始生命の誕生はそれよりももっと古いことになる。原始生命の誕生は従来考えられてきた年代よりもさらに古く、40億年近くまでさかのぼることができるのかもしれない。
現在の地球大気の組成は、脱ガスによって形成された原始大気と異なっている。その第一は酸素の量である。現在の地球大気には酸素が21%も含まれているが、原始大気にはほとんど含まれていなかった。