最初の原始の海は非常に熱かった。また、塩化水素が溶け込んでいたため、酸性度も大変強かった。しかし、この原始の海水は、地球の表層に存在していた玄武岩のような岩石と接触して、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、鉄などのイオンを溶かし出し、海水の酸性度をしだいに中和していった。大気中に残された二酸化炭素は、中和された原始の海に溶け込むことができるようになり、すでに溶け込んでいたカルシウムイオンと化合し、炭酸カルシウム(石灰岩)となって沈澱する。このようにして大気中の二酸化炭素は時代とともに徐々に除かれ、石灰岩となっていった。原始大気中に含まれていた二酸化炭素は100気圧に近かったと推定されている。その大部分は海が形成された後溶け込み、初期の大気中には10気圧ほど残った。その後徐々に減り続け、現在は0.0003気圧程度になってしまった。
現在の地球の大気は主に窒素(78%)と酸素(21%)から成り立っている。この大気組成は他の地球型惑星である金星や火星のそれと非常に異なっている。地球上の大気は、いつ、どのようにして出現したのであろうか。地球の大気は物質循環作用によって地球の歴史とともに変化し、進化してきた。初期の原始地球大気に存在していた水蒸気、二酸化炭素、窒素を主成分とする大気は、地表温度の低下により水蒸気が液体の水、すなわち海になることにより、二酸化炭素、窒素を主成分とする大気になり、さらに海の中に二酸化炭素が溶け込むに従い窒素を主成分とする大気に変化していった。そして、生命の誕生後、光合成生物の繁殖により大気中に酸素が次第に蓄積し、現在のような窒素と酸素を主成分とする大気に進化してきたのである。このような地球環境の変遷を物理化学的な観点から見れば、高温・高圧から低温・低圧へ、また還元状態から酸化状態へと変化したことになる。
最近、生命は海底熱水噴出孔のような高温の環境で誕生したのかもしれないと考えられるようになってきた。1970年代の終わり頃、東太平洋中央海嶺やガラパゴス拡大軸などの深さ2000-3000mの深海底で、350℃以上もの超高温の熱水を噴き出している場所が発見された。海嶺や拡大軸は海底プレートがつくられる場所である。このような場所の海底の下にはマグマ溜りが存在している。0-4℃の冷海水が地殻の裂け目から入り込んで、マグマ溜りに接触し、暖められて熱水が噴き出してくる。海底熱水噴出孔は世界各地の海嶺や拡大軸の近くで見つかっている。
海底熱水噴出孔からは硫化水素、メタン、水素などの還元ガスや鉄やマンガンなどの金属硫化物が大量に噴出している。その周辺にはハオリ虫(チューブ状の虫)、シロウリガイ、ムラサキイガイ、エビ、カニなどの小動物が多数棲息している。
海底熱水噴出孔の特徴を見てみると、第1の特徴は高温(200-350℃)、高圧(200-300気圧)の環境であることである。有機物を合成するにはエネルギーが必要である。熱水噴出孔からは大量の熱エネルギーが絶えず供給されている。冷海水が地殻の裂け目からしみ込んでマグマ溜りで急激に熱せられ、上昇し、冷海水の中に噴き出し、冷却される。高温で合成された有機物は直ちに冷却されるので、熱による分解をさけることができる。熱水噴出孔は一種の流動反応炉とみなすことができる。
第2の特徴は還元的な環境であることである。熱水噴出孔からはメタン、水素、硫化水素、アンモニアなど多量の還元ガスが噴き出している。一般に有機物は酸化的ガス(二酸化炭素、窒素)からはできにくく、還元的ガス(メタン、アンモニア、水素)からはできやすい。だから、海底熱水噴出孔は有機物のできやすい環境といえる。