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F 地球型生命発現の環境

柳川弘志 (慶應義塾大学大学院理工学研究科教授)

 

標記テーマに関する昨年(1999年)度までの調査研究では、下記の1〜4の課題を主に調査してきた。本年度は、昨年度に提出した上記テーマの報告書に、下記の5の課題「RNAと生命の起源」に関する最新情報と話題を加え、増補、改訂した。

1. 地球の原始大気と海洋の起源・進化

2. 生命に必要な材料の化学進化

3. 最初の生命と細胞の進化

4. 光合成の始まりと地球環境の変化

5. RNAと生命の起源

 

はじめに

生命が誕生した場である地球はどのようにして誕生したのであろうか。これまで原始地球の形成については謎の部分が多かったが、最近の惑星科学の発展により、その誕生のはじまりの部分のシナリオがかなりわかってきた。原始地球は超新星の爆発によってばらまかれたガスやチリが集まり、微惑星を形成し、その微惑星が互い衝突し合って大きな惑星に成長していった結果、形成されたのである。微惑星の衝突の際に放出されたガスが地球の原始大気となり、さらに海をつくった。

生命は4つの特性をもっている。すなわち、入れ物をもっている、自己複製できる、自己維持できる、進化することができる、である。入れ物は、脂質とタンパク質からなる細胞膜からできていて、自己複製はDNAの遺伝情報に基づいている。自己維持機能はタンパク質の触媒作用によっており、進化はDNAの突然変異とそれに続く自然淘汰によっている。地球上の生命はこのような特性をもった物質要素からできている。このような生命の複雑なシステムは、どこで、どのようにして生まれたのだろうか。

われわれの住んでいる地球は、およそ46億年前に形成された。そして、その地球という巨大なフラスコのなかで生命は誕生した。生命は30数億年前原始の海で誕生した。この地球内生命起源説は、現在のところ生命起源論者の大多数の支持を得ている。しかし、ごく少数の科学者は地球外生命起源説を唱えている。たとえば、地球上の生物は地球上で生まれたのでなく、他の天体から胞子や植物の種子のような胚種によってもたらされたという考えである。これは汎胚種説(パンスペルミア説)と呼ばれる。この考えはスウェーデンの著名な物理学者アレニウスによって最初提唱され、現在でもホイルやクリックのような科学者を含めて残存している。

生命の起源の研究の最終目標は、地球上の生物の誕生までの物質進化と、現在の生物までの生物進化の過程を明らかにすることである。方法は二つある。一つは、より単純な系から出発し、物質の構造や機能の複雑さを徐々に上げて行く化学進化の構成的アプローチである。たとえば、アミノ酸や核酸構成成分のヌクレオチドのような低分子化合物が、原始地球環境下でどのようにして高分子化合物になり、さらにどのようにして秩序ある高分子システムを構築していくのか、その過程を科学的に明らかにすることなどである。もう一つは、現在の生物から出発し、より単純な系の本質的理解を目指す。化学進化と生物進化の二つの立場からのアプローチの延長線上の接点に生命誕生の瞬間がある。

本研究主題では、地球型生命発現の環境、特に1)地球の原始大気と海洋の起源・進化、2)生命に必要な材料の化学進化、3)最初の生命と細胞の進化、4)光合成の始まりと地球環境の変化、5)RNAと生命の起源、について調査研究を行った。

 

 

 

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