白保サンゴ礁は、サンゴ類が豊富なサンゴ礁であった。しかし、1998年に大規模な白化が起こり、枝状のミドリイシやコモンサンゴなど、多くのサンゴが白化し、一部のサンゴは死亡してしまった。しかしながら、アオサンゴは全く打撃を受けず、死亡しなかった(図8)。
こうした白化に対する耐性は、アオサンゴのよく分布している環境とよく対応している。アオサンゴは、他のサンゴ礁でも、数100m〜1km程度の大きな群落を形成することが知られている。そうした海域は、白保サンゴ礁と同様に、礁嶺の発達した背後の波あたりの弱い環境が多い。例えば、太平洋のギルバート諸島の1つオノトア(Onotoa)環礁や、核実験で有名になったビキニ(Bikini)環礁があげられる。波あたりの強い環境でも分布するが、大きな群落は形成しない。波あたりの弱い環境は、通常でも海水の交換が遅いため、高水温になりやすい。そうした環境でアオサンゴは生存し、群落を形成するということがわかる。
3-3 アオサンゴの生殖
アオサンゴはどのように増えているのだろうか。その前に、サンゴ類の生活について説明する。サンゴの生活史には、“有性生殖”と“無性生殖”がある(図9)。有性生殖では、サンゴは“プラヌラ”とよばれる幼生をつくる。プラヌラ幼生は、一定期間、海中を浮遊し、分散した後、海底に定着する。定着後、プラヌラ幼生は“ポリプ”となる。ポリプは、骨格を自らの下につくりながら、分裂・出芽を繰り返して無性的に仲間を増やし、成長し、群体となる。こうしてできた群体がたくさん集まると、群落になる。
サンゴの生殖様式には、“放卵放精型”と“保育型”がある。アオサンゴなど、一部の保育型のサンゴは、体内でつくったプラヌラ幼生を一時的に群体の上にとどめ、放出させる。また、群体には性(雄雌)がある。サンゴの場合、多くは雌雄同体であるが、一部のサンゴは雌雄異体である。
1) アオサンゴの幼生放出 [付属資料 ビデオ参照]
アオサンゴは、雌雄異体保育型で体外保育を行う。白保サンゴ礁では、雄と雌の群体がほぼ1:1の割合で分布している。生殖時期の前の群体を解剖すると、雌のポリプには1mm弱の卵が1つみられ、雄のポリプには0.2〜0.4mmの精巣がブドウの房状にみられた。
体外への幼生の付着は、ポリプの伸縮運動によって行われる(図10)。膨らんだポリプが体表面に出現し、口より幼生を外部へと排出した後(図10A)、一度、骨格の中に収縮して幼生を群体の上に付着させる(図10B、C)。最後に、幼生の横から再びポリプが出現し、体外保育が完了する(図10D)。体外保育された幼生は、透明なゼリー状の膜に包まれている。ポリプの横に幼生が付着した後、平均4日間で、幼生がこの膜より伸縮を繰り返しながら、能動的に出てくる(図10E)。
アオサンゴのプラヌラ幼生は、白色であり遊泳性に乏しい(図10F)。プラヌラ幼生は、長さ3.7mmであり、サンゴの中では大型である。定着するための基盤を与えると幼生はその上を這うように探索し(図11A)、定着する(図11B)。海中に出てから定着までにかかる時間は短く、1時間から可能であった。定着後、1日目には円盤状になり、5日目には小さな触手がでてきて(図11C)、10日目には完全にポリプとなった(図11D)。定着後40日目には、ポリプは2個体に増殖し、青い骨格がつくられた。