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2) サンゴ礁とサンゴ州島の形成メカニズム

サンゴ礁とサンゴ州島の形成メカニズムは異なっているが、両者の間には密接な関係がある。サンゴ礁は、沖側に礁嶺と呼ばれる高まりをもっている。この礁嶺によって、外洋からの強い波のエネルギーのほとんどがさえぎられ、その背後のサンゴ州島まで達することはない(図3A)。すなわちサンゴ礁は、サンゴ州島の防波堤としての機能を果たしている。

さらに礁嶺とその付近は、サンゴや有孔虫などがもっとも多く生育している場である。とくに礁嶺に海面すれすれの部分には、サンゴ州島を作る主要な構成物である有孔虫が多く生息している。礁嶺で生産されたサンゴや有孔虫などの生物遺骸砂が、その背後に打ち上げられて形成された地形が、サンゴ州島である。サンゴ州島は、決して安定した地形でない。数100年という時間スケールで見れば、サンゴ州島はそこから波によって奪われる堆積物と、運ばれてくる堆積物の収支がおよそバランスして維持されている地形である。運ばれてくる堆積物の量が奪われる堆積物の量を上回ればサンゴ州島は成長する。何らかの原因によって、運ばれてくる堆積物の量が奪われる堆積物の量を下回れば、サンゴ州島は消滅してしまう。そして運ばれてくる堆積物の供給源が、サンゴ州島沖側のサンゴ礁である。

サンゴ礁とサンゴ州島の関係から、サンゴ礁がサンゴ州島に対して、「防波堤」と「堆積物の供給源」という2つの機能をもっており、その維持に大きく関与していることが明らかになった。

3) 海面上昇に対するサンゴ礁の応答

サンゴ礁は、過去2万年間(氷河期が終わり、温暖化が進んだ時期)の海面の急激な上昇に追いついて形成された地形である。海面上昇速度は、速い時で100年で1m以上に達した。サンゴ礁の礁嶺は、海面上昇速度が頭打ちになった6000年前以降、上方への成長速度が100年で最大40cmで海面に追いついたことが明らかになった。

21世紀の海面上昇は、21世紀末までに50cmであるから、100年に50cmである。この量は、サンゴ礁の上方成長速度とほぼ同じである。すなわちサンゴ礁は、21世紀の海面上昇に追いついていける潜在能力をもっている。21世紀にサンゴ礁が海面においついていけるならば、サンゴ礁礁嶺の防波堤機能と堆積物供給機能は維持されて、サンゴ州島の形成も維持される。サンゴ州島は上昇する海面に対応するプロファイル(地形断面)をもって、海面上昇に対応して、海面上に標高点をもつ島の地形は維持される(図3B)。

しかしながら、サンゴ礁が海面上昇に追いついて上方に成長し、サンゴ礁が維持されるという予測は、あくまでサンゴ礁が健全に維持されている=サンゴが健全に生育しているという前提のもとである。実際にはサンゴ礁は、その地域の人口増加、西洋化、開発に伴う、埋め立て、浚渫、陸源の土砂や栄養塩の増加、破壊的漁業といったローカルな環境悪化によって破壊の危機にある(図4)。サンゴ礁とサンゴ州島を維持するためには、こうしたローカルな環境ストレスを取り除き、サンゴ礁の健全な維持管理を進める必要がある。これらは海面変動という地球規模の環境変動に対して、それぞれの地域の努力によって対応できる。とくに環礁は開発が遅れており、世界のサンゴ礁の中ではこうしたローカルなストレスが小さい島々でもある(図4)。しかしながら、海面変動以外にも、地球温暖化とCO2濃度の増加という地球環境変動の他の要因も、サンゴ礁に直接打撃を与える可能性が高い。

 

 

 

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