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一方、深層循環のメカニズムを理解することもかなりむずかしい。海洋は海面が日射で加熱されるために、海面付近の水温が高くなり、海水が沈降しにくい状態のある。しかし、一方では、深海にも生物が存在する。生物は呼吸のために酸素が必要であるが、海底には太陽光が届かないから、光合成によって海底付近で酸素が作られることはない。海底付近の海水中の酸素は海面から供給されているわけで、そのためには、海面と海底を結ぶ海水の循環が必要である。実際は、グリーンランドの沖と南極大陸のまわりで海水が海底まで沈降し世界中に拡散している。そのメカニズムを模型実験で示すことを試みる。

 

6.1 風成循環

海水は海域ごとに循環し、また、海域を越えて、世界中の大洋を循環している。表層の海流は主に海面を吹く風の作用で発生するが、水面から1kmの深さまでしか及ばない(風成循環)。それより下の海水は、極地方の海水が深海まで沈降して世界中に広がる現象(熱塩循環)に従って移動する。どちらの現象も、私たちには、馴染みのない現象であるが、気候の変化などを考えるときには重要である。

風成循環のもっとも奇妙な性質は、大洋の西側に強い海流が存在することである。この現象は、地球が球面であるために生じる。すなわち、海洋は地球の表面をおおう薄い膜のようなものであるが、膜がコンタクトレンズのように膨らんでいる。膨らんでいる海洋の水面に風が吹いて循環が発生すると、その循環は西側に偏る(この現象を海洋物理学では「海流の西岸強化」という)。ここでは、実験によって西岸強化を観察することを試みる。

図9に示すような円筒容器を(例えば)北太平洋にみたて、水面を風で擦る。実際は、高緯度側が偏西風で東向きに擦られ、低緯度側が貿易風で西側に擦られる。実験では、水面から少し離して水平な円板を回転させ、円筒容器内の水を時計まわりに擦る。一方、海流の生成には地球の自転が大切なので、円筒容器全体を回転台の上に乗せ、一定の回転数で回転させる。また、地球の球面の効果を表現するために、円筒容器の底面を斜めにして、浅い側を北側に対応させる。このような設定で、水面を風で擦ると、顕著な西岸強化現象が発生する。

 

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図9 西岸強化を見る実験装置(左は説明図、右は作成した装置)

 

 

 

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