静かな水面に風が吹くと、そよ風程度の風速であっても、さざ波を励起する。さざ波は表面張力が復元力になって生じる波である。風が吹き続けると、さざ波は風浪に変化する。風浪は重力が復元力になって生じる水面波で、風が吹き続けると、次第に波長が長くなり、振幅も増加する。低気圧や台風が海上を通過するときは、長時間に渡って海面に強風が吹き荒れて時化になるが、このような場合は、風浪が発達して、海面が丘陵地帯のように凸凹になる。
風が止んでも、時化の海域で発生した波はすぐに消えることはない。風浪はうねりに姿を変えて、陸地に到達するまで、海面を伝播していく。それがうねりである。南極大陸の周辺で発生したうねりはハワイの南海岸まで押し寄せて、サーファーに楽しみを与える。土用波は、夏から秋にかけて、日本列島の東側の海岸の波が高くなる現象であるが、この波は、はるか南の沖に発生した台風による風浪が姿を変えて日本列島に押し寄せてきたものである。風が海に与えたエネルギーは、うねりが海岸で砕けるときに失われる。
4.2 波に伴う水の運動
津波は、風で起こされる波ではないが、水の動きは、波長の長いうねりと同じである。うねりにしろ、津波にしろ、海岸に押し寄せてくるように見えるが、押し寄せてくるのは、水面の凸凹の形だけで、水が押し寄せてくるわけではない。
波に伴う海水の運動は、波の波長と水深によって変化する。波長が水深より短い場合は、波に伴う運動は、水面付近だけに限られ、波長と同程度の深さになると、大きな水の動きはない。これに対して、波長が水深より長い場合は、海面でも底付近でも同じ程度に水が動く。前者を深水波、後者を浅水波という。外洋のうねりは深水波であるが、遠浅の海岸に近づくと、浅水波に姿を変える。津波の波長は数百キロメートルもあるので、外洋でも浅水波である。
ここでは、深水波について考察する。波長に比べて振幅の小さな波の形は正弦関数でよく表現される。一般に、基準水面からの変位をζとするとき、波に伴う凹凸の分布は、
と表される。