2000年度研究報告書
本研究は「地球外物質より探る」という研究課題で、昨年(1999年)度で研究成果報告書を提出したが、本年度にこの方面での興味あるトピックスが報道されたので、その後の研究成果とともにその補遺を提出するものである。最近一年間で地球の水の起源に関連して、以下の興味ある情報が得られている。もっとも多く水を含むイヴナタイプの炭素質コンドライトに関して、イヴナ隕石を入手し、水のあった証拠を示す炭酸カルシウムの脈の分布について、映像取得し研究中である。これに関連して、日本で2個、カナダで1個この種隕石の落下と回収が行われ、この方面の研究が著しく発展している。神戸隕石、狭山隕石、タギッシュ湖隕石がそれで、地球に水をもたらした隕石の多様性が明らかにされつつある。
1. 火星に現在も水がある可能性を示す地形の発見
「火星に海はあったのだろうか?」という疑問は、「火星に生命の発生していた可能性はあるのか?」という疑問に答える前に、解き明かしておかなければならないことである。しかし、これに対する直接的証拠はなかった。火星に生命の発生していた痕跡のある隕石が見つかったことと関連して、火星に生命をはぐくむには海の存在が提唱されている。もっとも海があった可能性の高い証拠はまだない。永久凍土が一時的に溶け洪水が起こったことを示す画像はある。NASAの火星着陸機は火星極地方への着陸には成功しなかったが、マーズ・グローバル・サーベイヤーが継続して高解像度の映像を取得している。火星にかつて海があったことは、このグローバル・サーベイヤーの高精密度高度計で得られた地形より、北極の低地にかつての大洋があったことが提出されていた。
今年の「サイエンス6月30日号」に載った論文では、クレーターや峡谷の壁の高解像度写真の中に、現在でも帯水層があり、そこから流れ出た水が造ったと思われる地形の映像が紹介された。クレーター壁のある地層より地下水が染み出して、それにより流された泥が堆積したと考えられる地形が発見された(付属資料「A:地球外物質より探る」(火星の水))。
今月のサイエンス12月8日号に「火星に発見された堆積岩?」という論文が公表された。地球上の堆積岩は、火成岩や変成岩の風や水や氷による浸食作用によって形成される。今年MalinとEdgett (Science, 8 Dec., 2000, 290, 5498)による解説記事を参照すると、火星グローバル・サーベイヤー探査による火星オービター・カメラからの映像と火星オービター・レーザー高度計からの地形図を用いて、火星上の堆積岩である可能性のある、横方向にかなり広がり、ある場合には、垂直方向にも厚い層状のユニットの証拠を提供している。これらの層状ユニットは、比較的古い火星表面上の北緯30°および南緯30°の間に集中している。この領域は、火星史早期における風や水による岩石形成にとって好都合な領域である。火星の特徴ある地形の起源を解明するにはいっそうの研究が必要ではあるが、詳細なマッピングからは火星の景観に対する水の影響がある事はますます支持されて来ている(付属資料「火星の堆積石」、「火星の堆積岩に関わるインターネット関連情報」)。