6. 今後の問題
地球の海の水はどこから来たかについての明確な答えは、これからの小惑星やコメットの探査にゆだねられているところが多い。21世紀初頭には、これらの小天体より直接試料を持ち帰り、研究室で謎解きに手を下すことができる。
来年から2004年にかけて行われる日本や米国での小惑星探査やコメット探査で、始原的な小惑星の画像や試料が回収される予定である。NEARは近地球小惑星の詳しい分析結果を2000年2月に得る見こみである(2000年度に資料追加予定)。日本のMusus-Cは始原的小惑星のサンプル回収を行なう。これらの試料の研究より、地球の海のもとが明らかになって行く事を示す図案を作成した(付属資料「フランス・オルゲイユに落下した隕石」)。この基礎資料は、1998年夏、カナダのトロント大学で開催された、国際鉱物学連合で、M.E.Zolensky(米テキサス州ヒューストンNASAジョンソン宇宙センター)が「太陽系の鉱物学」と題して講演したものを、取材、研究討議をして入手した。
火星からのサンプル・リターンは将来の惑星探査の花形である。火星に海や水が在ったとか、小惑星に水質変成の水が在ったとかの間接的な証拠は、炭酸カルシウムや硫酸カルシウム等の鉱物の存在によって推定されている。隕石や火星岩石の割れ目に、このような鉱物の脈や小結晶が析出する過程は、地球上の多孔質石灰岩の割れ目に、水が巡回する過程などの研究によって、その形成の手がかりをつかめる。沖縄には、琉球石灰岩のよいフィールドがあるので、そのリモート・センシングは、地球外天体における水の存在と炭酸塩鉱物の形成に関連した探査に貢献すると思われる。
隕石から得られる鉱物、同位体組成をはじめとする詳細な物質についての情報・知識と、望遠鏡による小惑星の知識の間には依然として大きなギャップがある。探査機による小惑星探査、とくにサンプルリターンによって、小惑星物質を隕石と同様な手法で分析して得られるデータは、過去に蓄積されている隕石の大量のデータと比較・検討することができる。すなわち隕石の知識と天文学的知識の間に大きなリンクができることになる。これより、地球に水をもたらした隕石の故郷についての手がかりが得られる。
今回探査する天体はたった一つであっても、スペクトル型と物質知識の間につながりが、人類史上初めてできることは大きな進歩であり、単に小惑星を理解するために重要なベースとなるだけでなく、従来の隕石の研究に頼った太陽系進化のシナリオを、あらためて見直す契機となるであろう。この探査が今回限りの単発的な研究として終わるのではなく、今後長期的な展望を持って小天体の探査による研究を推進していくことが必要である。