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部内でこの騒動が話題にのぼることももうありません。みんな、すっかり忘れてしまったようです。しかし、Yさんの気持ちには、まだ納得できないという思いがくすぶっています。

そんな折、人事部よりセクハラ相談窓口を開設した旨の通知がありました。やっと会社もセクハラ対策に乗り出したようで、部長クラスから順次、セクハラ防止の研修も実施されているようです。

I部長もこの研修会に出席しました。そして部内の朝礼の時、部員全員の前で研修会での内容を簡単に説明し、「セクハラのない職場づくりをみんなでめざしましょう」と確かに言いました。

そこでYさんは、また部長に面談を申し込みました。I部長が研修会に出席したことで、I部長もセクハラに対して、正しく認識をし、今ならあの冤罪の件ももう一度、考え直してくれると思ったからです。

しかし実際にI部長と話をしてみると、I部長はあきれたような顔で「まだそんなことを気にしているのか?もうとっくに忘れたと思っていたよ。別にいいじゃないか。私は今でも君はセクハラをしたなんて思っていないよ。それにK子さんだってこの件に関して何にも言ってこないし、以前と全く変わりなく仕事をしているし…」と言うのです。I部長やK子さんはそれでよくても、自分はちっともよくないとYさんは感じました。そこでYさんは、セクハラ相談窓口ができたので、そこにこの問題を相談してみてはどうか、とI部長に提案しました。すると今度は「本当にそんなことで解決できると、君は考えているのか?」と言います。なぜかとその理由を問うと、「だいたいあれは女性が相談するための窓口だ。だって相談員は女性だけだよ。男の相談に乗ってくれるとしたら、男の相談員がいるはずじゃないか。あんなところに相談したところで、人事部にこの件が知れて、君の立場はもっと厳しいものになるんじゃないの?」ということです。

確かにI部長にそう言われてみると、そんな気もします。それに今ではみんなが忘れたとはいえ、今回の件があっという間に部内にうわさとして知れ渡り、Yさんは大変辛い思いをしました。相談窓口に相談したら、今度は全社にうわさとして知れ渡るかもしれません。

 

 

 

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