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でもね、この間も話したとおり、セクハラに関して男は本当に立場が弱いんですよ。だって男女雇用機会均等法だって、男のことは一つも触れていないじゃないですか。法律自体がそうなんですから…。まあ、男にとって厳しい時代になったということでしようね。今後は疑われることもないように、注意してください」と言われました。

今回もI部長の肩透かしをくらったような気分になったYさんは、怒りが込み上げてくるばかりです。そして今回のセクハラ騒動はすっかり部内のうわさとなり、同僚の男性からは「おまえも大変だなあ。まあ仕方ないよ」と同情の声も聞こえましたが、どちらかというと興味本位的な態度が多く感じられました。そんな中、Yさんの部下の女性が「課長はそんなことをする人ではありません。それは部下の私が一番よく知っています」と言ってくれました。Yさんはその言葉が「分かってくれる人もいる」と涙が出るほどうれしかったのです。

どんなに自分はセクハラをしていないと訴えても、この会社の中では聴く耳をもってくれる人がいないと感じたYさんは、法廷に出てでも、この問題に決着をつけたいと考えました。そして、Yさんは再度、I部長に面談を申し出ました。「部長がこの問題を私が納得するように解決してくれないのであれば、私は法廷で争う覚悟があります。」とYさんはI部長につめよりました。その言葉に驚いたのか、今までは「まあまあ…」というI部長の態度は一変し、「そんなことしたら、君は異動だから」と強い口調で言われてしまいました。

『異動』という言葉に、Yさんは「まさに脅しである」と感じました。転居を伴う異動となった場合、Yさんは単身赴任を余儀なくされます。それは妻も仕事を持っているし、子どもの学校のこともあるしということです。また、老いた母親と同居しているYさんは、母親を妻に託して単身赴任することの難しさも考えてしまいました。

その後、Yさんは何も行動できないまま、3ヶ月余りが経過しました。

 

 

 

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