すると、部長は「メモがなければ、どうしようもないよ」と突き放しました。
結局は、問題が大きくなることを恐れてS子さんはここでも「所長には私が相談したことを絶対に秘密にしてください」と言いました。
部長はそれを約束しましたが、会議の席で「セクシュアル・ハラスメントを起こすような不心得な人間がいれば、その上の役員まで首が飛ぶんだ」と強い調子で言ったそうです。それを聞いた所長から、S子さんは「おれをセクシュアル・ハラスメントの加害者だと言っただろう」とものすごい形相で責められたといいます。その後に部長と所長の間でやりとりがあったようです。結局、所長はセクシュアル・ハラスメントで懲戒処分を受ける前にということで、自主的な退職を決めました。
その結果、所長は自己都合による退職を認められ、セクシュアル・ハラスメントに関しては何らの注意も受けずに辞めることになりました。その後、しばらくの間、S子さんは報復を恐れて外出もできませんでした。
所長からの報復はありませんでしたが、その分、所長の突然の退職をいぶかった元部下や所長と親しくしていた社員からS子さんは一方的に責められることになりました。「おまえのせいで所長が辞めることになった」と夜遅く電話が入ったこともありました。
そんな中、S子さんは後味の悪い思いを抱きながらも、この件については貝のように口をとざし、仕事を続けています。最近では、周囲の記憶が薄れてきたのか、このことを口にする人もほとんどいませんが、S子さんの傷ついた心はまだいやされることがありません。