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その場でM子さんは、「その日は用事がありますので」と断りました。

ちっとも反省した様子のないT課長にも、腹が立ちましたが、そのときに自分の怒りをぶつけて、「もうこんなことはやめてください」と言えなかった自分にも、M子さんは情けないと感じました。

どうしたらいいのかも分からないまま、勇気をもって友人に電話で相談しました。するとその友人は「絶対、会社に訴えるべきだ。一人で悩んでいても、何にも解決しない」と言ってくれました。確かにその友人の言うことも分かります。そこでセクハラ相談窓口が人事部内にあったことを思い出し、相談することにしました。

窓口担当のHさんに電話をしたところ、Hさんは海外出張で1週間ほど留守をしているそうです。たまたま電話に出たアルバイトの女性が「何かお急ぎのご用件ですか?」と聴いてくれたので、「実はセクハラのことで」とM子さんは答えました。Hさん以外の人に話していいのかどうか一瞬迷いましたが、電話に出てくれたのが女性だったのと、この問題を引き伸ばしにしてさらに嫌な思いをしてもと思ったので、勇気をもってそう伝えました。そしてその電話は別の人に回されました。その人は人事課長のAさんで、Hさんの上司でした。

おおまかな事情をAさんに伝えると、Aさんは事務的に「分かりました。どうにかしましょう」と答え、その場で電話は切れました。M子さんとしては自分の不安な気持ちをもっと話したいと思いましたが、それはできませんでした。また「どうにかしましょう」と言ってはくれましたが、実際にどうするのかさらに不安になりました。

その翌日、M子さんの不安は的中しました。さっそくK課長に呼び出され、「なに?T課長からセクハラを受けたんだって?人事から連絡を受けたよ。さっき彼から話を聴いたら、ちょっとした出来心でやってしまった、と言っていたよ。彼にしても、M子さんに好意をもってしたことじゃないのかなあ。それに、M子さん、タンクトップ姿だったんだって?そりゃあまずいよ。男はみんな狼だからね。まあ、男と女の問題っていうことでさあ。

 

 

 

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