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2 セクシュアル・ハラスメント問題の本質とは

 

セクシュアル・ハラスメントという用語は、私達の日常生活にも既に定着した感がありますが、それでも、何がいったいセクハラなのかを改めて問われると、これを正確に把握できている人は、少ないかも知れません。

セクシュアル・ハラスメントの概念を正しく把握するためには、その本質を理解しておく必要があります。マスコミをはじめとして一般にセクハラのことを、sexual(性的な)harassment(嫌がらせ、悩ますこと)を直訳して、「性的嫌がらせ」と表現することが多いようです。しかし、“性”の意味を考えるとき、sex=「生物学的な性別」のほかにgender(ジェンダー)=「社会的・文化的に形成される性別」のことも、認識しておく必要があります。ジェンダーの表現型は、性別による役割分担の強制−すなわちgender harassment(例えば、女性職員だけにお茶くみを強要すること)であり、これは普段見逃されやすいものですが、それ自体が個人の人格や尊厳を害するだけでなく、セクシュアル・ハラスメント問題の本質の一端を担う重要な要素になっていると言えます。(なお、“ジェンダー”という用語の概念は、学者によって相当広く解釈されることがありますが、本書では上記のように限定的に用いることとします。)

すなわち、性別による役割分担意識あるいは性的固定観念が、女性を対等な仕事上のパートナーと認識せず、補助的な役割程度にしか見ない(ジェンダーを基準に評価する)という風潮を生みだし、ひいては女性を性的関心の対象としてしか意識しない、という結果につながっている可能性が考えられます。女性職員を常に“○○ちゃん”とか“女の子”と呼ぶのは、セクハラの初期症状と認識すべきでしょう。

このため、人事院規則ではジェンダー・ハラスメントをもセクシュアル・ハラスメント防止対策の中に位置付け、運用通知において「“性的な言動”とは、性的な関心や欲求に基づく言動をいい、性別により役割を分担すべきとする意識に基づく言動も含まれる」と定義しています。これは改正均等法においては位置付けられていない、人事院規則に特有のものですが、これを含めた理由は上記のような背景に基づくものであることを十分理解し、職員の指導に当たって下さい。(ただし、改正均等法でも実行上は、このジェンダー・ハラスメントにも配慮がなされるよう指導されているようです。)

いずれにしても、職場からセクシュアル・ハラスメントをなくすための第一歩は、女性を対等な仕事上のパートナーと認識し、お互いの人格を尊重し合えるような職場の雰囲気づくりに努めることではないでしょうか。

なお、セクシュアル・ハラスメントが発生する背景要因としては、今述べた「性的固定観念・男女役割分担意識」のほかに、「男女間の性意識の落差」(個人差以上に男女間には、性に対する受け止め方の違いがあることを男性側が認識していない。そのため不用意な言動を繰り返すことになる。)、「優越的地位の濫用、男性優位の職場慣行、男女間の現実の力関係の差」なども考えられます。

 

 

 

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