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5.3 砂浜の機能の評価軸

既往知見の整理結果と本研究において行ったモデル調査から、砂浜の機能の評価軸を検討すると、基本的には、生物の生息場の提供を行う生物生産機能と水質浄化機能を軸として考えることになる。

このうち、前者については、全ての海岸について求められる機能であるが、後者については、富栄養化が問題となる閉鎖性の高い海域でより重要な機能であるといえる。従って本研究で対象とした外海性砂浜域では、前者の生物生産機能がより重要な意義を持つと考えられる。

 

5.4 指標の設定

砂浜環境の重要性を評価するために用いる指標としては、軸となる機能との関連性が大きく、かつ比較的簡便な方法でデータを入手できることが望ましい。

本研究では、このような視点から、砂浜特有の生物に関する調査項目と生息の場の基本的な項目を設定し、生物相との関連性を検討した。その結果、明瞭な関係は得られなかったが、砂浜の潮間帯には特有な生物相が生息し、これらと海浜の勾配という基盤条件との間に何らかの関係があることが示唆された。

一方、ILやCODといった有機物を指標する項目については、外海性砂浜の場合、そのレベルが低いため必要とされる精度が様々な誤差に隠されてしまい、評価指標として考えることは難しいように考えられた。

しかし、砂浜の生物相は、異なった砂浜には異なった生物相が存在することを考慮すると、これら以外にも影響する要素が存在すると考えられる。この点については、事例を積み重ねていくことで絞り込むことが可能であろう。また、本研究で対象とした人工海浜は1海岸のみであったものの、この事例から海浜の安定性が生物相に何らかの影響を与えている可能性を指摘した。この点は海岸保全策と合わせて生物の生息場を想像していく際に重要な視点であると思われる。

 

5.5 調査手法に関する方向性と課題

砂浜環境と生物の調査は、その沖合浅海域と異なってアクセスが容易である反面、波浪等による擾乱を常に受ける場所であり、平均的な実態をとらえることが難しい。また、砂浜の潮間帯に生息する生物に限ると、その季節的変動や分布様式などの情報が明らかではなく、調査計画を検討する基礎が整理されていない。

このため、今後はこれらの動態を明らかにしていく必要があると同時に、出来る限り簡易な手法により、広く砂浜の生物の実態を把握していく必要がある。しかし、このような調査を特定の機関が継続して行うことは現実的とはいえず、地域の住民などの参画を促して、広く継続的な調査を推進していくことが重要である。

また、この成果がフィードバックされることによって、基礎的な知見の集積が進むと同時に評価の精度を上げていく効果も期待できる。現状では、砂浜の生物相という特異な生物群に対して多くの住民がどの程度の興味を示し、参画を図ることが可能かは不明であるが、このような視点からの研究も必要と思われる。

 

 

 

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