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2) 研究の現状(事例整理)

生物生産機能に関しては、底生生物相について、大阪湾南部の砂浜(尾崎地先)、東京湾奥葛西人工海浜、稲毛・検見川人工海浜における調査事例、玄界灘沿岸の砂浜における調査事例、幼稚仔魚育成機能について、我が国における概況、鹿島灘沿岸浅海域(5〜15m)、大阪湾南部の砂浜(谷川地先)における調査事例を整理した。

底生生物については、基本的に内湾部における調査例が大部分で、また、汀線付近における調査例は少なかった。なお、汀線から水深30mまでの底生生物を対象とした事例として加藤ら(1999)1の全国的調査があるが、調査を実施した地点の水深が3〜30mとなっており、砂浜潮間帯の生物との枠組みからは逸脱するものと考えられたため整理は割愛した。また、主にホッキガイを対象とした海岸構造物(離岸堤、人工リーフなど)による二枚貝増殖場造成に関する報告や、離岸堤などの海岸構造物の新設による浅海域の生物相に関する調査事例もいくつか報告されているが、これらは特定の漁獲対象種にスポットをあてていたり、離岸堤や人工リーフなどの海岸保全施設に付着する生物に比重を置いたものであり、砂浜の生物という概念からは逸脱するため、これも整理対象から外した。

 

砂浜の生物、特に外海に面した砂浜潮間帯の底生生物相に関する調査事例は少ないが、これらの調査事例の整理結果から、砂浜潮間帯の底生生物相の特徴としては以下のようなものがある。

・潮間帯上部では種数、生物量とも少なく下層に向かうと種数、生物量とも多くなる

・砂浜の汀線付近における生物の出現量は季節的な変動が大きい。

・人工海浜の生物相は、天然海浜の生物相と比較すると貧困な場合がある。

 

また、潮間帯に定住する生物群ではないが、砂浜海岸の汀線付近に出現する幼稚仔魚については、千田・木下(1998)2にいくつかの事例が紹介されているため、ここでは汀線付近の砕波帯が沿岸魚類幼稚仔期に重要な役割を果たし、種によっては砕波帯付近にのみ特異的に出現するものもある事例について紹介した。この原因としては、砕波帯の物理環境が特異であることから捕食魚などの外敵から逃避できるとともに、高い生物生産能を有するため餌場として有効であるためと考えられており、地形的特性と汀線付近に生息する小動物が砂浜に来遊する生物にとって、重要であることを示している。

 

1 加藤史訓・佐藤愼司・三輪竜一(1999):海岸域の底生生物とその生息環境に関する全国的調査。海岸工学論文集、46、1136-1140

2 千田哲資・木下泉編(1998):砂浜海岸における仔稚魚の生物学。水産学シリーズ116、恒星社厚生閣、東京

 

 

 

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