3.2 砂浜の機能
(1) 生物生産機能
1) 基本的考え方
砂浜における生物生産機能を概観すると、大きく「生息場提供機能」、「鳥類、魚類などの策餌場」、「稚仔育成機能」、「産卵場提供機能」が主要なものとして考えられている。また、特異な例として、普段は砂浜背後の林に生息するオオヤドカリ類、ヤシガニ類、オカガニ類のように成長に従って、海域部から陸上部へ異動する生態をもつ生物の「移動経路」としての役割を果たしている例も報告されている1。
生息場提供機能
砂浜の構成砂自体が生物の生息場として機能するものである。
砂浜は砂粒子の集まりで構成されているため、そこに生息する生物は一般に小型のものが多い。また、汀線付近は波浪条件などにより底質が常に移動する不安定な場であるため、生息する生物種も沖側の浅海域に較べて特異なものが多い。主な生物群としては、砂粒子間に生息する間隙生物と呼ばれる線虫類や節足動物の貝形類、カイアシ類、クマ類などの微細な生物群がある。やや大きなサイズの生物群としては、等脚類(スナホリムシなど)、端脚類(ハマトビムシの仲間)、アミ類、多毛類など、さらに大きな生物群としては二枚貝類(ナミノコガイ、ハマグリなど)が中心となっている。
また、砂浜に生息する生物が漁獲対象種となる場合(例えば、コタマガイ、チョウセンハマグリなど)は水産生物の漁場を形成するという機能をあわせて有することとなる。
これらの砂浜−特に砕波帯に生息する生物群に関する研究例は、沖合浅海域の底生生物群集を対象とした研究例と較べ極めて少なく、また、断片的である。
策餌場としての機能
魚類や鳥類の策餌場としての機能は、上述の生息場提供機能の上に成り立っているものであり、砂浜に生息する小型生物を餌料として利用するものである。
稚仔育成機能
砂浜の汀線付近には、魚類の発育段階のうち、仔魚期、仔魚期から稚魚期への移行期、稚魚期のいずれかの発育段階に汀線付近を利用する魚種が多いことが知られている。この要因としては、水深が浅いため大型の捕食魚からの逃避、豊富な酸素供給、餌料条件などが考えられるが、詳細は明らかになっていない。
産卵場提供機能
砂浜の産卵場提供機能として最もよくしられている生物としては、ウミガメ類があげられる他、カブトガニも砂浜を利用する。また、コアジサシなどの鳥類も砂浜に簡単な巣をつくり繁殖を行うことが知られている。
1 西平守孝(1996):海岸における人工構造物と生物の棲み場所。波となぎさ、No.128、pp.5-6