お年寄りでは脳血管障害等が原因となり、膀胱に尿を溜めている期間中に膀胱が不随意に収縮するために、尿がもれることが多くなります。この型の尿もれの場合は、治すということを考えないで、どうしたら“おもらし”を防ぐことができるかを検討すべきでしょう。
さらに、動きの鈍さが加わって、いっそう“おもらし”がひどくなっていることがよくあります。動作の鈍い患者さんには、衣類にマジックファスナーやマジックテープを用いて着脱を容易にすること、後ろ開きズボンや前開きの下着などと、衣類に工夫を加えることもたいせつです。また、個々の患者さんに適した集尿器具を選ぶように指導することが必要でしょう。だから、治療にあたる人たちはどのような集尿器や失禁器具があるのかを十分知っておく必要があります。集尿器具などについては後述します。
痴呆老人の多い老人病院や長期療養施設での尿もれ対策としては、先に述べた排尿表をつけましょう。そして個々の患者さんに合った時間の定時排尿を行わせますと、かなりの患者さんで、とくに軽度から中程度の痴呆患者さんでは尿もれが防げると思います。肉体的にもたいへん労力のいるおむつの交換を極力少なくして、その余った時間を他の看護に回すことがたいせつでしょう。この方法は、“促し排尿訓練法”とでもいえばよいのかもしれません。
私の経験ではあまりよい印象をもっていないのですが、腟、肛門、または会陰部から患者さんが痛みを耐えることができる程度の電流を流して尿もれを治そうとする治療法があります(電気治療法)。とくに膀胱の異常収縮によって起こる尿もれの型に電気治療法は有効であると報告されています。施設によっては治癒率が80%を超えているところもあります。膀胱訓練法でよくならない患者さんには試みてもよい方法でしょう。