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お年寄りは日常生活動作(ADL)の機能が低下しているために、ボタンひとつをかけるのにたいへん時間がかかります。トイレに行きたいと思っても、ひとつひとつの動作が鈍いので間に合わなくなって、途中でオシッコをもらしてしまうことが多いのです。

このことは、私たちの鹿教湯病院での調査結果から、リハビリテーション後では、67例の尿もれ患者のうち48%で尿もれの消失または改善を認め、リハビリーテショシの結果、歩行や身の回りのことが自分で行えるようになった患者さんでは、尿もれの出現率が明らかに減っていました(表8)。この結果は尿もれを防ぐ上からもお年寄りを「寝たきり」にさせない努力が大切であることを示しています。

お年寄りは長い人生を歩んできた方ですし、高いプライドと地位身分があります。“尿がもれる”という状態に困惑し、精神的ショックを受け、「いよいよ自分も終わりか」と考え、うつ状態に陥る人も少なくありません。社会的地位が高い人ほどより強いうつ状態となる傾向があります。お年寄りの心を傷つけずに、尿もれ対策を行うことがたいせつです。

治療の結果、尿もれがなくなると、うつ状態がとれて明るくなり、本人の意欲も湧いてきて、いろいろと周囲のことにも関心を示すようになります。リハビリテーションなども積極的に、自らすすんで行うようになり、患者さんの社会生活への回復が早められます。

「わが国の特別養護老人ホムに入所している患者さんに、どれぐらいの尿もれがあったか」についての報告があります(上田、1988)。ホームに入っているお年寄りの約90%が、男女とも常時尿をもらしているという結果でした。このことから、養護ホームヘ入所するお年寄りの主な理由が、尿や大便のもれであることが推測できます。逆にいいますと、高齢者の尿もれや大便のもれが、一般家庭でどれほど大きな負担となっているかがわかります。尿や大便のもれが、今後の高齢者対策の最重要点のひとつになることは明らかでしょう。

 

 

 

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