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そんな時代において私の手づくりで、本当にお粗末な第1回目の入園式、昭和42年4月18日のことを思い起こすと感慨深いものがあります。3歳児からの私設保育園としての出発、たくさんの子どもたちとの出会いがありました。中でも最初にかかわったA君(3.2歳)との2年余の園生活は忘れることができません。赤ちゃんの時からお母さんのやさしさ、愛される幸福感を知らないまま、本児の姉が母親から可愛がられて美味しいものを食べている様子、差別されながらの日々の生活を送り、A君は近所の人からもかわいそうにと思われていたようです。

A君は保育園に登園すると満たされていなかった心が一挙に爆発、友だちや保育者を険しい目つきでにらみ、乱暴な行動と暴言、一日中何度もオモラシをして私たちの顔色を伺う…そんな繰り返しの日々。私も困ってしまい、お断りをしようかと何度も思いました。

しかし、保育園だけがA君の唯一の居場所であると思えば断わることもできませんでした。A君の気持ちをなごませ、愛してくれる人がいることをA君自身が心で納得するまではと在園期間中の殆どを費やしました。そんな甲斐があって、巣立っていく頃は素直になって笑顔を少し見せてくれるようになったA君に、うれし涙を流し、一生懸命に心を砕けばわかってくれるということを学びました。小さい時に育つ環境が人格形成に及ぼす影響力の大きさを、また、人が人を育てる難しさ、怖さを実感したものでした。私が開園当初から乳児保育に目覚め、A君に出会っていたらと思うと心が痛みました。乳児保育の重要性や必要性を理解してもらえるまでには、まだまだ遠いと思いましたが、自分の体験を実践の場で生かしたいという思いから、開園して3年目の昭和45年、いろいろの課題をかかえて乳児保育への取り組みを始めました。

 

 

 

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