PART I アプローチ編
1. 交通事業における接遇・介助の目的と必要性
1] このマニュアルの目的
このマニュアルは、交通事業に従事する人が、公共交通機関を利用する時に困難を感じているお客さまに対して、適切な接遇・介助を行うための知識と技術を身に付ける目的で作成されたものです。公共交通機関を利用する時に顕著に困難を感じているのは、高齢の方、障害を持った方ですが、ほかにも、妊娠中の方、けがをしている方、大きな荷物を持った方、子供を連れた方、日本語のわからない外国の方なども何らかの困難を感じています。本書は、公共交通機関を利用する際に、特に心理的、身体的な負担の大きい高齢者・障害者への接遇・介助に的を絞って学習するように構成されています。
欧米ではこうした研修をセンシティビティ・プログラム(又はトレーニング)といい、すでに交通事業者の間で一般的に取り入れられています(センシティビティとは、お客さまの障害やニーズに気がつくことです)。公共交通機関を利用している様々なニーズをもつお客さまに適切に対応できなければ、円滑な交通サービスを提供することができないと考えられているからです。
わたしたちにとって公共交通機関を利用して外出することは、社会に参画するうえで欠くことのできない活動です。高齢の方や障害のある方にとっても例外ではありません。会社や学校に行く、旅行にでかける、友人に会いに行く、買物に行く、病院に行くなど、その目的は様々ですが、安全で快適に移動したいと思う気持ちはみな同じです。
高齢および障害のあるお客さまに適切に接遇・介助し、安全・快適に公共交通機関を利用してもらうためには、こうしたお客さまの心理的・身体的特性を理解し、公共交通機関を利用する時のニーズを的確に把握することが必要です。このマニュアルは、そのための基本的かつ重要な知識と技術を身につけることを目標としています。なお、このマニュアルに示された内容は、高齢および障害のあるお客さま以外の方への接遇にも大いに役に立つと考えられます。
2] 接遇・介助の定義
本書での「接遇」と「介助」という語は、以下の意味で使用されています。
接遇とは、高齢および障害のあるお客さまから派生する様々なニーズに気付き、一般の乗客と同等に接し、理解と尊厳をもって応対することです。
介助とは、高齢および障害のあるお客さまが希望する様々な援助に対して、必要に応じて対処することです。具体的には、例えば、車いすを押して段差を越える、視覚に障害のあるお客さまにパンフレット等の情報を音読で伝えること、聴覚に障害のあるお客さまに行き先の案内をすることなど、円滑な移動をお手伝いすることです。