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随想

 

ISME TOKYO 2000に参加して

 

ISMEとマリンエンジニアリングと21世紀

 

(株)大内海洋コンサルタント

大内一之

 

5年に1回開催されるISMEは、舶用機関及びマリンエンジニアリングに関連する技術者が一堂に会す日本で行われる唯一の国際シンポジウムである。今回も企画セッションを含めて170余りもの論文が出され、多彩な行事プログラムも成功裡におこなわれ、お祭りとしても有意義なものであった。

しかし、今回のISME発表論文の内容について調べてみると、私としては次の点がいささか気がかりである。それは民間からの論文数の少なさである。企画セッションはご指名のせいか70%が民間からであるが、一般セッションは逆に民間からの投稿は30%しかなく、あとは大学、公立研究機関・協会等が大部分を占めている。これは最近の当学会の学術講演会でも顕著に表れている傾向である。

元来、舶用・海洋関連技術は工学の範疇にあり、自然の原理・摂理を探求する理学とは異なり、工学ではこれらの原理を利用し人間・社会のために役に立つモノを創り出す技術を探求する立場であると筆者は考えるものである。特に当学会の場合は単なる基礎工学ではなく、それを舶用・海洋機器へ上手に応用・昇華させる技術が中心になるべきであろう。この観点からすると、当学会にとって最もホットで重要なものは、実際に活動している企業の設計現場、生産現場、運用現場にある筈であり、プラクティカルなニーズと柔軟に変形したニーズが組み合わされ渾然一体化した中から、新しい技術とそれに伴う学問分野も生まれてくるものと思われる。このような技術開発の尖兵となるべき民間企業からの論文が少なくなっていくことは、当学会として淋しいだけでなく、舶用・海洋技術、マリンエンジニアリングにとっても将来の展望が期待出来なくなるのではないだろうか。

現在の日本の舶用機器・マリンエンジニアリング関連の業界は確かに経営的に先行き不透明な状態にあり、そのことが現場の技術者の削減、新しいことへの挑戦意欲の低下、等に重くのしかかっている感があるが、好況時のように増産一本槍で行動パターンが画一化している時よりも、現在のような行動パターンを決めきれない状況の方が逆に多様な価値観の醸成を促し、ニッチなものの発見や、予期せぬ成果を生むことも大いに考えられる。

私も、約30年民間企業で設計や研究開発に携わり、最近独立して研究開発型コンサルタントを開業しているが、第三者的な目でこの業界を見直すと、やはり宝は現場にありと思うことがしきりである。その意味で、すばらしい資質を持った技術者・研究者は、現在の日本の企業での一般的慣習である年を経て管理職になって行く方式よりも、より高度な経験をフレッシュな現場から宝を発見することに生かせるポジションに置いたほうが、技術の発展にとっては好ましい結果につながると思われる。

ISMEと学会から若干話がずれてしまったが、来る21世紀も舶用・海洋技術はマリンエンジニアリングとして人類にとって基幹的な技術であり続けるであろうし、特に海洋技術は地球最後のフロンティアである海洋を上手に活用するための成長分野と目され、新しい産業分野の形成も期待される。ISMEや学会が引き続きこの分野の技術発表・討論や出会いの場であり続けるためにも、企業技術者は勿論のこと大学の先生方等においても、当学会は基本的にプラクティカルであり現場を重要視すべきであるとの感覚を大切にして学会に参加し、運営にあたって頂きたいと要望する次第である。

 

 

 

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