このエマルジョン方式は、幾隻かの船で実際に永年にわたって利用されて来たものであるが、将来改善が待たれる問題も存在している。それは、ピストンリング、シリンダライナー及びバルブの腐食・摩耗の増大、燃料噴射システムの耐久性低下、潤滑油の劣化である。システムの設計や材料を変更する可能性も含めて、将来の研究が望まれている。
4.1.2 水噴射
水を燃料と別のノズルを使って、直接燃焼室に噴出する方法、単一燃料噴射弁を通して、燃料と水を交互の噴射する方法、給気マニホルドに噴出する方法が考えられる。
(a) 別個のノズルを用いた直接水噴射
デュアル・ノズル・システムを使って、水と燃料を別々のタイミングで噴射させ、NOx低減の最適化を図ることが出来る。燃料噴射前に水を噴射し、シリンダ内の空気を事前に冷却しておく。Kohketsuら「10」が示しているように、水噴射が燃料噴射と一部オーバーラッピングするようなタイミングにすることで、非常に大きなNOx低減効果を得ることが出来る。
この技術は燃料−水エマルジョンにより簡単であるが、噴射された燃料を微粒化させると言う点では、エマルジョンのような効果を持たない。しかしエマルジョン燃料と比べ、噴射システムのエマルジョン輸送能力を高めなければならないと言った問題はなく、エマルジョンの安定性という問題も無いため、より多量の水を入れることが可能である「11」。このやり方により、50%−60%のNOx低減が報告されており、HelsingborgのSilja SymphonyやAuroraと言ったフェリーにおける実船試験の結果も、この事を照明している「12」。
(b) 単一ノズルを用いた直接連続水噴射
この技術には、1動作で水と燃料を燃焼室に噴射できるような機能を持った燃料噴射弁を設計することが必要となるFig.2はこうした設計の一例である。燃料噴射の間の期間に、水は図の部品中央部を通って下り、更に細管部を通って周囲の燃料の中に入る。水の入った分、同じ体積の燃料が噴射弁内から押し出され、燃料供給管に戻される。噴射ポンプが燃料を供給し始めると、噴射弁内の圧力が上がり、チェックバルブが閉じ、燃料がノズルを通じて、燃焼室に噴射される。噴射の順序はそれ故に、1ヶのノズルから燃料−水−燃料となる。毎回の噴射で放出される燃料中の水の割合は、水を燃料中に送り出す細管の位置及び長さによって変えることが出来る。また、これは水を注入するタイミングにも依存する
(c) 給気マニホルド中への水の噴射
給気マニホルド中へ水を噴射することは、最も簡単な湿式N0x低減法であり、Nichollsら「13」が詳細に議論しているように、NOxと燃料消費率に関して、直接水噴射と同様の効果を持っている。水は一部レシーバー内において気化し、残りはシリンダー内で気化する。このNOx低減法は、非常に有効であるが、ピストンリング、シリンダライナー及びバルブの腐食・摩耗、潤滑油の劣化の問題は残る。
4.1.3 湿り空気を用いる原動機
湿り空気を用いる原動機(HAM)はNOx低減に有望な技術として開発がすすめられている「11」「12」、このコンセプトは、排熱を利用して過給空気湿度を100%まで高めると言うものである。これはFig.3のように、空気冷却器の代わりに特別の加湿コラムを入れることによってなされる。このコラムの前段で、水は温まった冷却水及び排熱によって、およそ80℃まで加熱される。更にこの水はコラムの中で約200℃の過給空気の熱によって気化される。
直接水噴射や燃料エマルジョン法と比べ、この方法はより多くの水、燃料の1−3倍の量の水をエンジンに入れる事が出来る。HAMコンセプトでは、過給空気の温度は通常より高めであるが、注入する水によって熱的な調節を行い、圧縮行程後の空気温度は同じになるようにすることが出来る。