4.4 ガスタービン
軍艦用として考えると、ガスタービンは蒸気タービンプラントと比べ、容積当りの出力が高く、燃料消費が少なく、船上における保守負担が少なく、操作性が良く、人出も少なくて済み、機関室の作業条件も良い。船舶における2-10MWの範囲の動力源としては、ガスタービンは、中/高速のデイーゼルエンジンと直接競争しうる存在である。一方低/中速のデイーゼルエンジンについては、低質かつずっと安価な燃料で運転することが出来、大きさや出力密度の制約が厳しくない所で使用されていることから、こうしたケースでガスタービンが考慮の対象とはならないであろう。単純タービンサイクルの燃料消費率は、デイーゼルエンジンと比べて劣っており、出力率も低い。再生式ガスタービンでは、全負荷においてはデイーゼルに近い燃料消費率が得られるが、低負荷運転時にはかなり消費率が悪くなる。優れた設計の複合サイクルガスタービンは、排ガスの熱を利用してデイーゼルよりかなり良い燃料消費率を達成できるであろう。デイーゼルエンジンでは排熱の多くが、冷却水/油、潤滑油など低グレードの媒体に移されてしまうのに対し、ガスタービンの場合は、軸出力に変換されなかった燃料エネルギーの中95%が、高グレード・高温の排気として得られる「24」。
ロールスロイスWR-21のような現代のガスタービンは、コンパクトで高出力と言う特徴によって、伝統的に中速デイーゼルエンジンが占めていた市場に、初めて挑戦しうるほど強力なところに来ている。ガスタービンに固有の信頼性の高さは、長く認識されており、特に高速運送分野などの新分野で競争する際には、この点が大きな長所の一つになるかもしれない。
ガスタービンは、その高い出力/容積比と速い起動性によって、長年軍艦の主機として選択されてきた。しかし、商船に採用されることが無くなった理由である、熱効率の低さと残査物燃料油が使用できないと言う伝統的な欠点は、改善されつつある。現在最も一般的な単純サイクルガスタービンは、全負荷時に35%程度の熱効率を有する。ただし部分負荷時の熱効率はずっと下がってしまう。
先進的なサイクルを持つガスタービンは、高い全負荷時熱効率と、優れた部分負荷性能を提供できる。中間冷却器付再生式WR-21ガスタービンは80%負荷で42%の設計熱効率を有する「25」。先進サイクルガスタービンは、高速回転電機と組み合わせると非常に発電に適したシステムとなり、充分統合化された電気推進システムにおいては、これが一般的な方式となるかもしれない。
ガスタービンにおけるセラミック材料の使用は、ここ暫くかなりの興味を集めているテーマである。ガスタービンのサイクル熱効率は、可能な最高燃焼温度によって制約されている。温度を挙げるほど高い熱効率が得られるであろう。最高温度は熱機関の高温部分に使われている材料の物性によって制約され、一般的にはその融点は1300℃前後である。非常に優れた高温・耐久性を持つセラミック材料を採用することにより、サイクル最高温度をかなり高めることが出来、熱効率を20%改善し、出力を40%の増加出来る可能性がある。
4.4.1 単純サイクルの改良
(a) 複合サイクル
ガスタービンからの高温排ガスを排熱回収ボイラー(HRSG)に供給し、そこで得られた蒸気を蒸気タービンで使用すると言う、ガス―蒸気複合サイクルを採用することによって、より高いサイクル効率を売ることが可能となる。最新の陸上型・大規模複合サイクルシステムの熱効率は、58%に到達したと報告されている「11」。こうした複合システムは、初期コストが高く、複雑で重量が大きいが、燃料が節約出来る点で、大型クルーズ船などある種の船舶においては、魅力的な選択肢になりうるかもしれない。全システム効率は、非常に高くなる可能性があり、特に排熱がキャビンや炊事場などで利用されるときはそれは顕著である。