日本財団 図書館


燃料消費量抑制やNOx低減といった特定の運転条件を実現するように、個々の噴射装置の設定を決める(具体的には噴射装置の燃料噴射プロファイルを変える)事が出来る。燃料噴射時期を遅らせることは、NOx低減手段の一つであるが、燃料消費量が増えてしまう為、排ガスコントロールの第一手段にはなり得ないことが判ってきている。電子制御式燃料噴射の最も重要な可能性は、エンジン側の要請に対し、燃料噴射の量、圧力、タイミングを正確に対応させ、より効率的に燃料を供給することが出来ると言う点にある。加えて、燃料噴射装置がパソコンベースのソフトにより操作できるようになれば、マニュアルで設定を変更したり、診断テストを行ったりできるようになるかもしれない。

電子制御式燃料噴射システムの登場は、コモンレールによる燃料供給システムの実現に道を開くことにもつながる「21」。コモンレールシステムの長所は、運転の柔軟性が増すこと、噴射圧力が負荷に依存しないこと、排ガスが低公害化されること、高効率化及び運転コスト低下に伴う副次的な負荷発生が比較的少ないことなどであり、非常に魅力的な燃料供給システムが実現される。実際、幾つかのエンジンメーカーでは、電子制御式燃料噴射、排気バルブ制御の採用により、カムシャフトを無くしている。

 

4.3 燃料電池技術

“水素社会”と言うは、長く考えられてきたものである。高い効率が約束されており、公害の無いエネルギー源である水素が、未来の魅力的な燃料源であることは疑いも無い。水素利用における明白な問題点は、運輸や発電業界の需要を満たせるような、世界的なインフラ整備を行うことの困難性にある。ことに海運が他の運送手段に対して持っている競争的利点と言うものは、大量輸送による経済性に加えて、安くて低級な燃料、若し船舶で使用しなければ、原油精製過程において、使用不能の廃物となるだけの燃料を使用することが出来る点にあるのである

しかしながら、現在、燃料として水素開発を推し進めようとする強力な駆動力が自動車業界にあり、これがこのコンセプトを後押ししている。実際、先導的な幾つかの自動車会社が、燃料電池電気自動車(FCEV)は2004年までに、商業的に実現されるあろうと表明している「22」。若しこれが燃料業界の長期的未来を示すものである疑いも無く、海運業も同じ技術を採用するように仕向けられるだろう。

燃料電池は本質的に電解質を利用した電池であり、水素リッチのガスと酸化剤が結合して、水と電気エネルギーを作り出す。燃料電池の主なタイプは次のとうりである「23」。

 

陽イオン変換膜型燃料電池(PEMFC)

固形酸化物型燃料電池(SOFC)

融解炭酸塩型燃料電池(MCFC)

アルカリ型燃料電池(AFC)

 

PEMFCは現在良く使われているタイプであり、普通のバッテリーと同様、実質的には単セルを多数重ね合わすことによって構成されている。Fig.5に示すように、燃料と酸化剤は低圧(典型的なものは2―3barであるが、圧力を増すと効率は上がる)のガス体反応物として電池に供給され、結合して電流と水を生成する。

この原理は全てのタイプの燃料電池に共通している。しかし各タイプはその電解質の構成や運動温度、触媒等の点において異なっている。アルカリ燃料電池は反応の際にアノード極が消費されてしまうと言う独特の欠点を持ち、そのためライフコストは高くなってしまうが、エネルギー密度の点では優れているという特徴がある。

燃料電池の運転は、純水素に限定されているわけでなく、メタノールや改質燃料など使用されている。今のところ、改質技術は開発途上にあり、軽油なども燃料電池の前段で改良することにより、直接使用することが出来る。水素燃料に移行するのとは違い、この場合は世界における燃料貯蔵インフラの変更は、僅かで済むから、この選択は短期的には水素を使う場合よりも、ずっと現実的である。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION