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2. 背景

 

海難事故のほぼ約80%がヒューマンエラーに起因するといわれている。古くは1967年3月船長の操船ミスによりドーバー海峡で座礁し、沿岸国への流出原油による大規模な海洋汚染を引き起こしたリベリア籍タンカ“トリーキャニオン”の例があるが、この事故に端を発し、政府間海事協議機関(IMO)の場で船員の技能、知識基準を国際的に設定する検討が開始され、それから17年後の1984年4月STCW条約を発行した。しかし、その後も1987年3月の“ヘラルドオブエンタープライズ”転覆事故(188人死亡)、1989年アラスカ沿岸で発生したエクソンバルディスの氷山との衝突事故、1993年1月シェトランド諸島南端において機関故障により座礁したブレア号の事故、等々の人命損失や海洋汚染を伴う深刻な海難事故が発生した。これらの事故もヒューマンエラーが原因であったことからIMOにおいて船舶管理規定の検討が進められ、1994年5月74SOLAS条約の新章として国際安全管理規則(ISMコード)の条約化が決定され、1998年7月1日より同規則が発効する事となった。

しかしながら、1997年1月島根県隠岐島沖でロシアのタンカー「ナホトカ」の沈没事故、最近ではポルトガル沖のエリカ号沈没事故、など深刻な海洋汚染を伴う海難事故が後を絶たない。これらの事故の度に汚染被害国から強硬な規制強化要求がIMOの場に出され、更なる規制強化や検査の強化が行われようとしている。これらの規制は海難事故の多数を占めるサブスタンダード船の排除を目的とするものであり、その実効を挙げるためにポートステートコントロールは益々厳しくなっている。また世論の厳しい追及もあり船級検査も強化される方向である。一方先進国や発展途上国で問題となっている大気汚染問題に関連して船舶からのNOxの排出規制も現実問題となっており、安全性や環境保全性の社会ニーズはグローバル化し、かつ高まりつつある。

一方製品レベルについては、国毎に文化や習慣等の違いにより安全性や信頼性の概念が必ずしも一致していない為これが貿易上の非関税障壁であるとして非難されることがあったが、最近は安全に関する基本的な考え方を標準化し欧米との整合化を図る方向で努力されており、IEC、ISO等の国際標準を翻訳し、JIS規格として採用するようになってきた。これらの中には安全規則作成のためのISO/IEC Guide 51がある。更にこれに基づいて電気、電子系の安全管理のあり方を規定した“IEC 61508-Functional Safety of E/E/PE SRSs”(以下IEC 61508)が策定されJISC 0508が発行された。従って、ここで規定される安全管理のあり方が今後のグローバルスタンダードとなるであろう。また、製品を一定の品質レベルに保つための品質管理規格としてISO 9000ファミリーが発行されたが、これもその翻訳版がJIS Q 9000ファミリーとして刊行されている。これらの規格を満足する品質管理システムを確立した企業や団体を認証する認証機関についても各国が相互認証する体制が重要になってきている。

また、欠陥商品によるユーザの被害を救済するための製造者責任法がわが国でも1995年7月1日PL法として導入された。本来は複雑化した社会における保険制度のようなものとして位置づけられる法律であるが、日本より早くから立法化されていたアメリカでは陪審制度を含めた裁判制度や弁護士の成功報酬制度などを背景に懲罰的賠償金が話題となり、かつ問題となっている。ともあれ、PL法導入により企業はリスクマネジメントが重要となり、製品の品質及び安全性の向上に一層の注力が必要となりつつある。

 

 

 

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