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3. 安全の概念

 

日本においては「安全とは事故が無いこと」であり、事故の原因をヒューマンエラーをベースに解釈する方法論が広く普及している。一方、欧州では確率・統計学を中心としたリスク論が主流となっており、機能安全規格がISO/IEC国際規格として制定され、機能安全の法制化へと推移している。

日本の安全管理の原点は「技術は本質的に安全」であり、事故は人間の過誤によるというもので、言いかえれば過失責任主義であった。従来から日本では「安全計装の信頼性は十分高い」「事故解析結果と計装の安全化とは直接の関連は無い」との観点から、「何故このような規格が必要であるのか理解できない」ことが機能安全の考えの浸透を遅らせてきたのではないかと思われる。しかしながら、近年の製造物責任主義、あるいは厳格責任主義の普及に伴い、むしろ「危険の管理」こそが損害を最小に留める有効な手段であるという認識が国際的に広がって来た。国際安全規格の制定は「安全配慮の責務」を実際の技術形成の場で実現しようとするものであり、21世紀の安全管理の基幹をなすものである。

 

ISO/IECは、品質や環境に引き続いて、安全に関する新しい規格を整備している。安全規格制定のための指針としてISO/IEC Guide 51を用意し、ISOは機械系の安全規格を、IECは電気・電子系の安全規格を担っている。ISO/IEC Guide 51では安全用語とリスク低減プロセスの概念が明確に示されている。安全用語としては、損害、危険、危険な状況、危険な事象、リスク、残留リスク、防護措置、許容可能リスク、合理的に予見可能な語用、リスク評価などが定義されている。特に安全の定義として「許容不能なリスクがないこと」つまり絶対安全は存在しないことが採用されている。また、リスク低減プロセスとして、「許容可能なリスクは、絶対安全の理想と、製品、工程またはサービスによって満たされるべき要求と、ユーザの利益、目的適合性、費用対効果の水準及び関連する社会慣行との間のバランスの結果であり、許容可能リスクはリスク分析とリスク評価の組合せであるリスクアセスメントの繰返しプロセスによって実現される」と規定されている。

近年、コンピュータ応用制御技術の普及と同技術が安全目的のために使われるようになったことを背景として、新時代の安全装置として、旧来のリレーや機械的安全装置に変わって電気/電子/プログラマブル電子系により安全機能を実現するために、設計から、設置、保守、廃棄に至る全安全ライフサイクルにおいて行うべき手順を規定した規格がIEC 61508である。日本てはJIS C 0508翻訳規格として発行されている。この規格における安全達成の考え方は各産業分野で規範となるものであり、本規格の目的は各産業分野での安全規格の制定を促進することでもある。

 

先に述べた様に、日本では機能安全の考えの浸透は未だ緒についたばかりであり、まして、船舶分野となると手付かずの状況である。幸いにも規範となるIEC 61508が既に制定されているので、事例研究をベースに安全設計及び評価の実践を通じて船舶分野における1つのガイドラインの作成に取組むことにより、船舶分野における機能安全の普及の糸口としたい。

 

 

 

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