近隣型助け合い
実践講座 NO.10
「わかるふくしネットワーク」
主宰 木原孝久
ベンチが育む助け合い
助け合いで最もむずかしいのが、助けを求めるということです。もしその「助けて!」を、抵抗なく言える相手がいるとすれば、こんなにありがたいことはありません。人の悩み事を上手に引き出す名人みたいな人がこの世にはいるのです。
東京・府中市に住む島村ときさん(八三)は、数年前夫に先立たれ、息子夫婦と生活しています。最近は体も弱り、杖にすがっての外出を余儀なくされています。医師の勧めもあって、自宅近辺を散歩するのですが、そこで興味深いことが生じてきました。
彼女の自宅前を散歩などで通り過ぎる高齢者と声を掛け合う関係が育ってきたのです。「しばらくでしたね。このごろご加減はいかがでしょうか?」―ときさんのそんな一声を合図に、体のどこが痛いとか、夫の具合はどうだとかいった悩み事が次々と出てきます。
立ち話では不便だと察した嫁の八重子さん(四六)が気を利かして、自宅前にベンチを置きました。通り掛かりの人なら誰でもと、ご丁寧に「ごじゆうにおやすみください」という木の札も掲げました。