当初、故小渕首相がこの会議を発足させた時の目的は、総合的な社会保障制度の将来を、国民に明快な形で示すというものだった。一つの大きな誤算は、その小渕氏が病に倒れたこと。後任の森首相の下、会議は続いたが、新内閣は「IT(情報技術)路線」を打ち出し、前任者の敷いたレールに積極的に乗ることはなかったようだ。
堀田理事長は五名の起草委員の一人としてこの報告書をまとめる立場にあったが、残念ながらその主張は一部しか取り上げられていない。「逆ピラミッド型の特殊な人口構成が本来の筒型に戻るまでのここ三〇年ほどは、どんなに考えてみても社会保障費の負担感が相当重い。だから若い人たちは将来にほとんど夢が持てなくなっている。特殊な移行期なのだから特別な措置で埋めるべきだ」(堀田理事長)として、特に次の四点を挙げた。
まず第一に高齢者の個人資産の活用(リバースモーゲージの制度化等)、第二に相続税の活用(事業用資産を除いた個人資産を子供に譲るのではなく高齢者世代自身のために活用する仕組みづくり)、第三に国有財産の売却等による特別措置、第四に逆ピラミッドを埋める当座の措置としての外国人労働者の活用等。この他にも、ワークシェアリング(仕事の分かち合い)・シュタイペンド(謝礼金)方式の導入などによる高齢者雇用促進、尊厳死・レットミーデサイド(終末期治療の事前指定)など患者中心医療の促進、住民意思を反映させた地方自治体を保険者とする医療保険・介護保険・年金その他社会保障制度の統一的運用等々の具体的な提言を行った。