エッセイ
当世高齢事情 No.14
公証人 清水勇男
長男の裏切り
「主人は、もうあきらめようよ、と言うのですが、私は納得できません。長男は私のすべてでした。非行を繰り返して親に迷惑ばかりかけてきた次男に比べ、長男は子供のころから成績がよく、中学、高校を通じて学年3番と下がったことはありませんでした。私は、乏しい家計の中から爪に火をともすようにして長男の塾や家庭教師の費用を捻出し、長男の成長だけを目標に生きてきました。その長男が最難関の国立大学に現役で合格したときには、私はもう天にも昇る心地でした。やがて卒業し、一流銀行に就職して間もなく、結婚話が持ち上がりました。相手は系列銀行の重役の娘で、家柄や財産などに大きな開きがある上、一人っ子なものですから、将来必ず家名やお墓の承継などで問題が起こるものと考え、絶対反対でした。しかし、その反対を押し切って結婚してしまい、あろうことか嫁の実家のそばに家を新築してもらって住んでいます。嫁は、私が結婚に反対したことを根に持っているので、孫が生まれても連れて来てくれないし、私も嫁の母親が入り浸っている家には行きたくもありません。これでは嫁の実家に長男を取り込まれてしまったようなものです。次男はまったく頼りにならず、老後のことが心配でなりません」
自慢のご長男であるだけに悩み苦しむ母親からこんなお便りをいただきました。
ご長男の首に縄をつけて引っ張ってくるわけにもいかないし、困ったことですね。この問題は、思い切って自分の意識を転換するしか解決できないように思います。