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最後は「使う本人のこだわり」だからだ。「身体的な機能が低下したり衰えたりしても、『生きるかたち』を失わないように」と前述の浜田さんは強調する。身体機能にばかり目を向けるのではなく、「これからどんな生活を送りたいか」を本人と共にゆっくり話し合う。たとえば、「デイサービスは楽しかったから、退院したらまた利用したい」とか「絵を描く趣味は続けたいなあ」など、本人の希望に耳を傾ける。すべては無理でも優先順位を決めて、少しでもそれが叶うような福祉機器選びをしたほうが、本人にとっても生きる励みになるだろう。いくら便利だと言われても、突然なじみのない道具には手も出しづらいものだ。

そこで、お勧めしたいのが、元気なうちから共用品に触れて使ってみること。たとえば、瓶のふたが少しの力で開けられる「ビンふた開け」(川島工業)や相手の声がはっきり聞こえる「もしもしフォン」(多比良)などは、ちょっとした工夫があって高齢者でなくても使ってみたいと思わせる。「共用品を使って道具に対する信頼感を高めておけば、いざ介護用品が必要になったときでもすんなり受け入れられるのでは」と浜田さんは期待する。

これは「ボランティア」ともまったく同様に言えること。助け合いの活動に参加し慣れている人は、自分に助けが必要になっても変な肩ひじはらずに自然に周囲のサポートを受け入れることができる。介護はこれまで、隠すもの、隠れるものという概念で見られがちだったが、本人ももっと気楽に体を動かすことができ、また周囲の介助者の助けにもなる福祉機器。もっと積極的に利用して、不具合があればどんどん声を出していく。そうすれば市場も反応し、より使いやすく、多くの種類のものが安く手に入るようにもなっていくはずだ。

最近、展示会では介護用ベッドなどを見学する五〇、六〇代の夫婦が増えたという。六〇代の元気なうちから使用すれば一〇年以上使える。いざ、介護が必要になったときには、ベッドにも馴染んで操作もだいぶ慣れているはずだ。

 

 

 

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