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市場や行政が提供するサービスには、臓器移植のように高度に専門的で、定型的なものから、家政婦のサービスのように、非定型的で専門性のさほど高くないものまで、その幅は広い。

とはいえ、それらのサービスは、市場では対価を得て、行政の場合も税金を使って提供されるから、プロとしての専門性が要求される一方、人間関係は、通常はその時限りで、継続的サービスであっても、それほど濃いものにはならない。

 

人が生活していく上で必要とするサービスを広くとらえ、五つの類型に分けて一般的特徴を見てきたが、それぞれの類型を、その人間関係をつくることの難易という点からみると、まず家族関係になることは、もっともむずかしい。これに対し、市場でモノやサービスを売り買いする関係は、ごく簡単である。対価は払わなければならないが、この便利さは高い価値があり、だから人々は、多くを市場から得て生活しているのである。しかし、市場には競争に勝つためのコスト制限という限界が、また、行政には使うことのできる税金(財政)の限界があって、きめ細やかで多様な、しかも時間に制約されないサービスを提供することはむずかしい。一方、そういうサービスを助け合いの精神で伝統的に提供してきた家族、親戚等の関係は、近代化が進むにつれ弱いものになっていく。

両者の間を埋めるのが、近隣の助け合いであり、NPO・ボランティアによる支援活動である。これらの関係は、温かく、その助け合いは柔軟に行われ、しかも、これらの関係は、家族や親友などの関係と違って、比較的簡単に結ぶことができる。近隣関係は、心さえ開けば関係を深めることができるし、NPO・ボランティアは、心さえ決めれば参加ができる。これらの活動を充実していくことが、近代社会において、一方で市場や行政による高度なサービスで生活を充実しつつ、同時に、心温かいサービスで安心と日々の充足を得る生活を営むための切り札となるであろう。

 

 

 

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