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7年間在宅介護をしてきたその家族は、介護者に余裕がなければいいケアはできないと断言する。精神的なゆとりがなくなってくると、精神的な虐待をするようになる。まず、声をかけられても無視をする。「ねえ、おねえさん」と呼ばれても聞こえないふりをする。そして、食事や排泄、入浴の時は、ひと言も言わず、顔も見ずに黙って介助をする。これは、どんなに質の良い人でも、許容限度を超えると理性が働かなくなり、自衛本能としてハラスメントをするというのである。

ほとんどの職員が退職する時、笑顔がなくなり、腰痛を起こしているのは、介護技術の問題ではなく人手の問題が大きいと介護を体験してきた家族は見る。

特養ホームは、心身に重度の障害を持つ後期高齢者がたくさん入居している。せめて、人生の最期の時は、誰からも無視されず、ささやかな希望がかなえられるものでありたい。介護する人たちから声をかけてもらい、手をさすってもらったりして、孤独や不安が和らぐような温かい介護を受けたいと思う。

介護保険は、在宅介護のサービスを充実させるというが、独居老人が増えている中で、在宅介護の限界は当然起きてくる。特養ホームが、在宅介護の限界を支える施設として十分な役割を果たすためには、人手が重要な課題となる。

 

 

 

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