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保健・医療・福祉という三つの機能を一か所にまとめ、「何かあったら、こちらへいらっしゃい」では済まない時代だと思うのです。市民に開かれた介護システムを築き上げるには、心のこもったネットワークとそれを支える人材こそ必要で、利用者にとってもっと使いやすいように改善していかないと、地域に根付いた存在にはならない。健康・衛生面の指導、整った医療機関、特別養護老人ホームなどがまとまってあると、一見便利なようですが、それぞれが自分の任務の中に閉じこもってしまう弊害も生じます。「私は医療を、あなたは保健を」では困るのです。

 

なるほど。制度や施設はいくら立派でも、それだけではきめ細かい高齢者ケアにはならないんですね。

 

もう一つ心配なのは、大都市周辺部と違って、高齢者の定住している地方では、競争条件が乏しいため、一つの公的施設がさまざまなサービスを独占してしまうという懸念もあります。やや抽象的な言い方ですが、「地域ごとの囲い込み」が進むと、住民の選択の幅が狭まり、サービスの善し悪しを評価するシステムも働かなくなる。介護保険制度は本来、オープンなもので、介護にかかわる情報公開や民間業者を含めたサービス競争があってこそ、開かれた制度になっていくはずなのに。

 

地域独占につながる危険も

在宅サービスにしても施設介護にしても、利用者に選択の権利がある、というのが介護保険の建前ですね。

 

そうです。しかし、実際は利用者が選べるような仕組みになっていない。特に過疎地帯といわれる地方では、地域独占体になってしまう危険があるのです。

 

介護保険は市区町村が保険者になって、サービスを提供するわけですから、どうしても行政のウエートが高くならざるを得ないと思います。自治体のあり方についてどう考えますか?

 

私も介護支援専門員(ケアマネジャー)なのですが、要介護者の認定審査会にしても、いろいろな専門家を集めているとはいうものの、田舎では行政の顔を見なければ何もできない仕組みになっている。町長選挙と一緒ですよ(苦笑)。訪問調査にしても同じこと。ひと口でいえば、行政万能主義というか行政依存型になっている。これでは困ります。認定についてクレームがあっても、オンブズマンのような第三者がいないと、不満の持っていきようがない。都市部では競争条件が働くでしょうが、地方ではどうしても行政主導型にならざるを得ない。東京にいては見えにくいことです。

 

 

 

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