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彼らが言うには、「あんたらがフィリピンと日本人だったから助けたけれども、もしインドネシアだとか、マレーシアと言ったら絶対に助けなかった」と言っていました。われわれだけではなくて、彼らにも危険な水域なのだと思いました。

だいたい私の経験はこれが概略です。海賊船に監禁されていたときの生活は、もちろん目隠しされて縛られて、横になっているというだけの生活で、確かに大変と言えば大変なのですが、普通の方でも海賊に会う、船員でも海賊に遭うということはめったにない事で、そういう経験をされる事はないと思います。陸上でとなると、ゲリラグループなどに捕まってどこかに監禁されるというケースだと思います。

一番近いのはそういうことで、そういうことを考えるとやり方でどういうふうにしたらいいのか、そういうときのサバイバル方法と言われても私にはちょっとわからないのです。実際に抵抗して逃げられるとか、いろいろチャンスがあればもちろんそうすべきだと思いますが、無駄に抵抗すれば反感を買うばかりか、仲間も殺される危険もあるわけです。捕まった以上駄目だと思ったら、おとなしくしていたというか、いっさい反抗しないというやり方を取りました。そうすると相手もこちらの出方によって、それほど厳しくもなくなります。

とにかく生きて帰るのが一番肝心なことで、誰かが殺されたり、けがをするというつまらないことを避けるためにやっていたのですが、もちろんチャンスがあったら海に飛び込んで助かる確率なんていうのはほとんどないので、逃げるチャンスはない。そうすれば逆に相手をやっつけるという方法しかないのです。しかし、こちらは目隠しをして縛られて、仲間同士一緒にもいないし、話し合いもできない。それから乗組員の士気というのもありますが、フィリピンの人が全部そうだとは思いませんが、とにかく家族もあるし、出稼ぎで来ているので、そんなところでけがをしたり殺されたりするのはつまらないと思うからか、戦うという士気はまったくありません。

ですからその人たちを焚きつけて、そんなことをやったところで、成功の確率はないし相手は武器も持っている。それでこの場は絶対に戦わないという方針で私はやったのです。相手もそうひどい扱いはしなかった。叩かれたという人間も1人もいませんし、向こうは面倒にしても、トイレに行きたいと言えば文句も言わずに連れて行ってくれました。食糧も一つもいいものではないけど、向こうもいい食糧を持っているわけではないのでしょうがない。

 

 

 

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