フィリピン人も声が届くぐらいの範囲のところまで来ていたので、自分たちはフィリピン人で、日本人も2人いるとさかんにそういうことを怒鳴っていました。向こうからパスポートを見せろと言ってきました。しかし有効なパスポートは全部海賊に取られて何一つなかったので、これは困ったと思っていたところ、1人の人間が期限切れの古いパスポートを持っていました。
それは海賊に襲われた時に、個人の私物からお金とかを取った中に、財布を取った連中が3人ぐらい写真、期限切れのパスポート、いらない物は返してくれていた海賊がいたのです。その中に期限切れのパスポートがありました。フィリピンのパスポートには間違いがないので、それを漁船に渡しました。
向こうはフィリピンに間違いないと思ったらしく、近寄って来て船長だけこっちに乗って来いと言いました。私は乗組員がたくさんいるのに、1人だけ行くということが何となくやましく感じましたが、そんなことは言っていられないので向こうの船に移りました。
タイの漁船でタイもあまり英語が普及しているところではないので、なかなか通じなかったのですが、こちらはもと乗っていた船はどういう船で、それで海賊にやられてこうなったと、いろいろと説明したのです。
そのタイの漁船は、タイの西側のメガラ湾に面しているプーケットという、けっこう有名な観光地になっている所から出てきている漁船でした。ちょうど80マイル、約150キロ南の位置だったのです。それでやはり漁業無線で、ちょっと古い形の無線機でしたが、無線電話を持っていたので、それで基地の会社と話をしたら、すでに情報が流れて知っていたのではないかと思えるのですが、すぐに救助して帰って来いという指令だったらしいです。
タイ語でしゃべっているので私にはわからなかったのですが。それでは「ほかの乗組員もみんなこっちに移ってくれ」ということで、ゴムボートも証拠物件ということで持って帰るということで積み込んでくれました。それで結局助かりました。
9日の朝1時ぐらいでしたか、プーケットに着いて助かったというのが現実です。あとは漁船に乗せてもらってから聞いた話ですが、あの辺りではやはりインドネシアとかマレーの悪い海賊がいるらしく、タイの漁船でも実際にやられて、殺されたり被害を受けているというのがかなりいるので、あのへんの漁船も非常に警戒するそうです。だから海賊が漂流しているように見せかけるということも警戒していたそうで、なかなか寄ってこないというのは、それを警戒していたらしいです。