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漁船の操業しているところ、沿岸に近寄れば、まだチャンスはあるなと私は考えていました。そうすると救助されたのはちょうど10日半経った、11月8日だったのです。7日の晩に五つ、六つ、明らかに漁船の明かりが、夜、周囲に見えてきたのです。だからいい水域に入ってきたのではないかと、希望を持っていました。特にその1隻は近くに見えたと言うか、錯覚だったのか、みんなも焦っているせいか、たいして遠くないから漕ごうという希望がありました。

私も一概に無視することもできないので、しばらく漕いでみるかということになって、オールを両側につけて1人せいぜい30分漕ぐのが精一杯だということで交代で漕ぎました。

二、三時間ぐらいは漕いだと思いますが、さっぱり近寄る気配がないので、そこでシーアンカーを入れて少し待とうということにしました。しかしたいして風もないのに漁船の方向に筏が向くのは、完全にそちらから潮がきているということがわかって、これはいくら漕いでもあそこの漁船までいけることはなく、くたびれるだけです。明日にしようということで、中止して朝になったらもう漁船は見えないという状態になっていました。

助けられる1日前に漁船を見て、それまではまったく漁船に遭っていなかったのです。

助けられる日はお昼ぐらいだったでしょうか、遠くに漁船が見えるということで見ていたのですが、手を振ったところで、見える範囲ではないと思っていたのです。その船は延縄の漁船でこちらに向かって来ていました。スピードは遅いのですが、明らかにこちらに近づいてくるのを、期待して待っていましたところ、近づいてきて、上で働いている人間が少し見えるようになったので、筏の前と後ろで、オールの先にシャツをつけて振ったり、何とか注意を引こうと思いました。しかし、近づいてきたと思うと、とんでもない方向を向いたり、こっちを向いたり、しよっちゅう変わるのです。見ているのか見ていないのかわからないけど、何とか注意をひかないといけないと思ったのですが、信号は残りが少ないし、昼間のことであまり効果はないということで、信号は使わないで待っていました。

明らかに向こうも発見している。わかった。見られているぞというのをこっちが感じるぐらい近づいてきて、それでも警戒していて、ちょっと近づいてきたと思ったら、またそっぽを向くなど、ずいぶん気を持たせたのですが、最終的には見ようということで10メートルぐらいまで近くに来て、そこに止めて、向こうの船長かわかりませんが、出てきました。

 

 

 

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