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しかし、現実には無視されたということです。連続してその信号を打ち上げればよかったのかもしれませんが、われわれとしては無駄球を打つというほどの数がないので、どうしても一発ぐらいしか撃てないのが現実でした。この次のチャンスのためにとっておこうということになり、一発ずつしか撃っていなかったのです。本当に近くを通って行くのですが、まったく無視されているようでした。

考えてみると、現在の船は通常VHFですべて連絡などやっています。船同士でも必要あればそれを使える。16チャンネルが一般の呼び出しチャンネルになっているのですが、大型船では持っていない船はなく、通常どこの船でも16チャンネルは常時つけているのです。通常の船で遭難してわれわれみたいに筏に乗る場合には、船に装備されているもの以外にバッテリーの小型のVHFがあり、船にそれが3個は乗っています。

たとえば1個持ってきているにしても、それで通る船に連絡する、呼びかけることはできるのですが、われわれの場合は与えられていないので、まったく連絡手段がなかったのです。考えてみれば相手の船はおかしい明かりが見えたときに、16チャンネルで何か呼んでいたのかもしれませんが、私たちは全然返答できないので、おかしいか間違いかということで通り過ぎてしまったのかもしれない。一概に相手が見ていないということは言えません。

それから有名な海賊海域ですから、逆に海賊がそういう方法で接近しようとしているのかと取られたのかもしれない。このへんは実際想像だけでわからないのです。あの2隻が近くを通った時も両船ともそういう扱いで、向こうも何の信号も打たないし、私たちもラジオを聴くということができなかったので、無視して通り過ぎていったのかも知れません。

その時点で乗組員もかなりガックリくるというのがわかっていたのですが、私も、前に漂流記とか読んだことがありますが、そういうケースで見つけてくれる船が少ないというのを読んでいたので、あまり期待しないで1回、2回そういうことがあっても落胆するんじゃないよと乗組員に話ししていました。そういうことで大型船に救助してもらうというのは、ほとんど無理なのではないかと、考えるようになってきました。

実際に救助してくれたのは漁船でした。漁船だったらうんと近づけばたいがい人間も見えるし、そういう点で助けてもらうには有利ではないかと考えました。その海域が実際にどこかわからなかったものの、助けられた地点から逆に考えると、漁船はそれまで一度も見ないで、遭うこともなかった。漁船の操業海域からかなり離れたところにいるのだと思っていました。

 

 

 

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